3−1 AYA
丘を登る。
我らが高校は何故か高台にあるのだ。
まぁこの辺りの地形がそうなっているせいだが。
小高い丘を登りきると海が向こうに。
朝の霞に浮かぶビルは向こう岸。
ベースケースのストラップが肩に食い込む。
汗をかきつつも、丘を登りつめ、後は直線道。
朝早い時間なこともあって、朝練の生徒以外、人は見当たらない。
校門の方を見ると、小柄なギターケースを担いだ後ろ姿。
綺麗な黒髪が朝日に艶めいていた。
少し小走りに駆けて追いつく。
「おはよう」
声をかけると後ろを向く。
「あ……おはよ」
はにかみながら挨拶を返すアヤ。
実は同じクラスだったりする。
自分だけ中学が地元じゃなかったのでクラスでもなかなか馴染めず、クラスメートも名すら知らない方が多い。
アヤもなかなか社交的とは言い難い性格なので知らなかったのである。
「悪かったね、社交的じゃなくて」
そう言って唇を尖らすアヤ。
「あれ?口に出てた?」
首を横に振るアヤ。
「よく言われるから」
少し寂しそうな笑み。
儚い、触れたら壊れそうな笑みに少し、手を伸ばしたくなった。
「僕だってそうだ」
何故この時にそんな事を言ったのか。
この時の僕には分からなかった。
アヤの自然な表情を見たのはこれが初めてだったかもしれない。 何となく沈黙が、部室へ向かう自分と、アヤの間にわだかまった。
遠く聞こえる運動部の掛け声さえ、澄んだ朝の空に吸い込まれるような沈黙。
「似たもの同士……かな」
アヤの表情は、その髪に隠れて見えなかった。