2−1 precision
「とりあえず、ベースを買いに行こうか」
そう言ったのはミヤだった。
「え、あいつの置いていったのでいいのでない?」
レインがそう返す。
あいつ、と言うのは前のベーシストのことらしい。
アヤが首を傾げるのを見るとどうやら彼女は直接は会っていないらしい。
「因みに、何てベースですか?」
ん、と音楽室の端を顎でさすレイン。
あぁ、見覚えがある。
「ヤマハ、アティテュード」
アヤが若干呆れた声音で言う。
「うちは毎回ラストナンバーはあれだからね」
あれか。と思い当たる。
「僕には少々レベルが高いと思うのですが……」
ベース的にも曲的にも。
「最初は60'sマインド辺りから始めるとして……」
因みに60'sマインドはベースの和音演奏が印象的なナンバー。
「もっと普通のスケール弾きから始めた方がいいと思う」
アヤがぽつりと言った。
「というか、個性的過ぎでしょ、入門編には」
ミヤが正論を言う。
ヘッド側に異様にウェイトが行ってる上にチョッパーをやる気ゼロのフロントピックアップとかいろんな意味で個性的。
「最初はジャズベなりプレベなりさ」
ジャズベースとプレシジョンベース。
どちらもフェンダーのベースで、全てのエレクトリックベースの元となったベースだ。
それもそうか、とレインが頷き、
「じゃ、日曜日の十時駅前集合。いつものとこ行こうか」
ベースを買いに行くことになったのだ。