1−3
「さて、まずは私達の演奏を聞いてもらおうか」
レインはそう言うと脇に立て掛けられたギターを取る。
漆黒のレスポール。
ミヤはドラマーの丸椅子に座り、スティックを取る。
そして、アヤはギターを出す。
深い青のムスタング。
マッチヘッドのそれは陽の光に綺麗に輝いていた。
ミヤがスティックを打ち鳴らす。
一拍の休符。
レインは笑みを深くし、
アヤは目を細めた。
そして走り出すギターリフ。
原曲ではユニゾンで重ねているギターを二本で贅沢に弾ききり、勢いを殺さず走り抜ける。
きらきらと光るムスタングの音にエフェクターで歪んだレスポールが絡み付く。
ともすれば際限なく早くなるギターを抑えるかのようなドラムのバスが歩調を刻む。
いいアレンジだ。
ギターが二本になった分音は厚みを増し、もともとベースとは思えないような音色をうまくカバーしている。
けれども、だ。
ドラムスが足を動かし、ギターが双腕を振るっても、そこに血液を通わせ、橋渡しするベースが居ないのだった。
このアレンジに最低限のベースサウンドを加えたらどうなるだろう。
背筋に甘い痺れが走り、足の力が抜ける。
このサウンドを支えるベースを任せられるとは何て贅沢。
「Daddy, Brother, Lover and Little Boy」
三人の声が揃い、最後の数小節、終わりを惜しむようにギターが、ドラムが一音一音を噛み締め……止まる。
誰も声をあげず、演奏の余韻を匂わせる空気が、密閉されたかのように固まる。
その中でレインとミヤ、アヤの瞳が僕の目を貫く。
静寂を破ったのは、窓際に降り立った烏の羽音。
「君が必要だ」
レインはそれだけを言った。
僕は、今の演奏でその言葉の意味を噛み締めていた。
そして、この日フェイスレスの一員となることをきめたのだ。