表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/42

8-6

 いよいよ、最後の曲となる。

 レインのハスキーな声が消え、照明が落ちる。

 僅かな時間を置いて、客席から拍手。

 真っ暗な闇。

 でも、レインが笑っているのは、何故か分かった。

 そして、ここからがボーナストラック。

 僕とアヤが前に出て、マイクの前へ。

 再度点灯する照明。

 客席は逆光で見えないけど、僅かにどよめく声。

 ニヤリとレインが笑って、ピックを頭上に掲げる。

 天に、掲げる。

 そして、振り下ろす。

 ツインギターが絡み合い高みへと登って行く。

 ベースの僕は、おいて行かれないように全力でついていく。

 ミヤのドラムはタイトに、負けじとビートを刻む。

 叩きつけるかのように刻まれるリフ。

 そして、一度立ち止まる。

 そこから展開する曲。

 ベースはスウィングせずタイトにブルーススケールを刻む。

 そして、歌い出す、アヤ。

“気が大きくなった金曜日”

 始まる、コロラドブルドック。

 照明に当たったアヤの綺麗なソプラノ。

 輝いているように見えた。

 メインギターに戻ったレインは、活き活きとリフをかき混ぜて、奏でる。

 僕が、初めて聞いた、今のフェイスレスの曲。

 ツインギターの贅沢なエディション。

 二人のプレイを邪魔しないように、僕は低音を支える。

 そして、サビへ。

 僕もマイクに噛みつく。

“コロラド・ブルドック”

“すっかり夜に酔っちまった”

 僕とアヤが歌う。

 レインはミヤに向かって、ギターをかき鳴らした。

“俺はふらふら、床に転がっている”

 アヤが少し引き、僕が歌う。

 みんな、笑っていた。

 そして全員でサビを歌った後に、お互いが戦うようなイントロへと入る。

 ギターとギター、ベース、ドラムが叩きつけあう。

 本来のメタルのようなあの曲とは離れた、僕らのコロラドブルドック。

 そして、二人で歌う、裏切られた男の三番。

 全員で歌う最後のサビ。

 そして、なだれ込むアウトロ。

 楽しかった。

 ただとにかく。

 この時間を終わらせたくなかった。

 アウトロは、終わらない。

 四人の視線が、中央で交差する。

 みんなが、笑っていた。

 レインの歪んだギターは複雑なリフを刻み、アヤの澄んだギターは繊細なリフを刻む。

 ミヤのパワフルなドラムは、けれども技術に裏打ちされたもの。

 ああ、僕はみんな好きだ。

 知らず、笑顔になっていた僕に優しく笑いかける三人。

 目の前が歪んで、何かと思ったら、涙だった。

 よかった。

 幾つかの偶然が重なって今居るここだけど、僕はここに居れてよかった。

 名残惜しげに、最後の一音が奏でられ、今度こそ、照明が落ちた。

 そして、僕らの初めてのライブは終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ