8-6
いよいよ、最後の曲となる。
レインのハスキーな声が消え、照明が落ちる。
僅かな時間を置いて、客席から拍手。
真っ暗な闇。
でも、レインが笑っているのは、何故か分かった。
そして、ここからがボーナストラック。
僕とアヤが前に出て、マイクの前へ。
再度点灯する照明。
客席は逆光で見えないけど、僅かにどよめく声。
ニヤリとレインが笑って、ピックを頭上に掲げる。
天に、掲げる。
そして、振り下ろす。
ツインギターが絡み合い高みへと登って行く。
ベースの僕は、おいて行かれないように全力でついていく。
ミヤのドラムはタイトに、負けじとビートを刻む。
叩きつけるかのように刻まれるリフ。
そして、一度立ち止まる。
そこから展開する曲。
ベースはスウィングせずタイトにブルーススケールを刻む。
そして、歌い出す、アヤ。
“気が大きくなった金曜日”
始まる、コロラドブルドック。
照明に当たったアヤの綺麗なソプラノ。
輝いているように見えた。
メインギターに戻ったレインは、活き活きとリフをかき混ぜて、奏でる。
僕が、初めて聞いた、今のフェイスレスの曲。
ツインギターの贅沢なエディション。
二人のプレイを邪魔しないように、僕は低音を支える。
そして、サビへ。
僕もマイクに噛みつく。
“コロラド・ブルドック”
“すっかり夜に酔っちまった”
僕とアヤが歌う。
レインはミヤに向かって、ギターをかき鳴らした。
“俺はふらふら、床に転がっている”
アヤが少し引き、僕が歌う。
みんな、笑っていた。
そして全員でサビを歌った後に、お互いが戦うようなイントロへと入る。
ギターとギター、ベース、ドラムが叩きつけあう。
本来のメタルのようなあの曲とは離れた、僕らのコロラドブルドック。
そして、二人で歌う、裏切られた男の三番。
全員で歌う最後のサビ。
そして、なだれ込むアウトロ。
楽しかった。
ただとにかく。
この時間を終わらせたくなかった。
アウトロは、終わらない。
四人の視線が、中央で交差する。
みんなが、笑っていた。
レインの歪んだギターは複雑なリフを刻み、アヤの澄んだギターは繊細なリフを刻む。
ミヤのパワフルなドラムは、けれども技術に裏打ちされたもの。
ああ、僕はみんな好きだ。
知らず、笑顔になっていた僕に優しく笑いかける三人。
目の前が歪んで、何かと思ったら、涙だった。
よかった。
幾つかの偶然が重なって今居るここだけど、僕はここに居れてよかった。
名残惜しげに、最後の一音が奏でられ、今度こそ、照明が落ちた。
そして、僕らの初めてのライブは終わった。