8-4
順番が発表された。
当日に発表するのは目当てのバンドだけ見て帰る人を多少なりとも減らすためらしい。
フェイスレスが最初。
pulseが、最後。
僕らが最初に持ってこられたのは、やはり僕とアヤの加入の変化が気になったかららしい。
「音源良かったよ、ちょっと方向変わったね」
とレインとミヤとは顔なじみらしいPAさんは言ってたけど。
他のバンドはこのライブハウスの常連らしく、慣れた様子だった。
「今回は逆リハだから順番は最後だ」
レインが言う。
逆リハーサル、という制度が良く分からなかったが、要は最後の方から順にリハーサルをするという事らしい。
最後という事は、一時間四十分くらい暇。
狭い控え室の中でベースを弾くのも辛いし、チューニングだけ済まして脇のスタンドに立てかける。
数本用のそれには深いブルーのムスタングと漆黒のレスポールが既に並んでいる。
「さて、外の空気でも吸いにいこっか」
ミヤが伸びをして言う。
「え、でも」
と、アヤ。
他のバンドの曲も聞きたい、ということだろう。
僕も聞きたいところだけど。
リハーサルが始まったらしく、ステージの音が控え室にまで響いてくる。
腹にまで響く低音。
艶っぽいミドルの、ギター。
しばらく何か考えているような顔をしてリハーサルの音を聞いていたレインが控え室の出口へ向かう。
慌てて、僕も立ち上がる。
控え室のドアを開くと、更に大きな音で聞こえる音楽。
逆リハだからpulseが一番最初なのだ。
今更、ミヤの意図に気付いた。
ステージに立つユウキを見る。
サンバーストのプレベをかき鳴らす彼。
届かないレベル。
いつの間にか側に立っていたアヤに袖を引かれる。
「大丈夫」
大音量の中で声は聞こえなかったけど、そう言ったように見えた。
先に行ったレインとミヤを追って、地上へ。
昼の太陽が眩しい。
「煙草、吸うかい?」
煙草を吸いながら、勧めてくるレインに断ろうかとも思ったけど、何となく受け取ってしまう。
初めて吸う煙草は、嫌に落ち着く味がした。