7-5
ぼんやりとした朝。
パソコンの前でコーヒーなんて飲んでみる。
私は紅茶党なのだけど、これはあの人の趣味。
だから、カップの中のコーヒーはもう温もりを失っていた。
脇のベースに手を這わせる。
黄ばんだ白のベース。
湿った空気が部屋に流れる。
彼がシャワーから上がってきたみたいだ。
「ねぇ」
私が背中越しに声を掛けると彼が軽く振り向く気配。
板張りの床が少し、ぎしりと鳴った。
「この前の本屋の彼、昔のあなたに似てない?」
「何をまた」
振り向けば上半身裸でタオルを掛けただけの彼が自分のコーヒーを注いでいた。
湿った髪が張り付いた頬。
寝不足でちょっとついた隈。
ちょっとごつめな顔。
太い腕。
改めて見るとどきりとしてしまう。
いつもは眼鏡を掛けている目は、細められて鋭く、けれどどこか涼やか。
諦念を感じさせる雰囲気は齢に見合わない。
「無精髭剃って、もう少し健康的にしたら似てるとおもうんだよね」
彼はコーヒーを一口すすり、熱さに眉を顰めた。
「髪型が似てるのは認めるが」
そういって長めのストレートの髪を弄る彼。
セットしなくていいその髪がうらやましい。
ケアしなくても綺麗だし。
私が膨れているのに気付いたか、笑いながら彼は頭を撫でてくる。
それが嫌ではないから逆に複雑な気分になるのだ。
やがて彼は煙草に火をつけ吸い始める。
髪に匂いがつかないようにと、わざわざ私から離れて。
何があの本屋の少年に似ているかって、やっぱりそれは雰囲気だと思う。
何か落ち着いたような、内に秘めたような、逆に不安定のような。
朝は少しずつ過ぎていく。
窓の外の空には烏が数羽飛んでいた。