7-4
アヤちゃん不機嫌だなぁ。
ドラムセットの裏側からそっと盗み見る。
レインがまだ来てないから、みんな別々の練習をしているのだけど、さっきからカイリくんとアヤちゃんは一言も話していない。
いつもならどちらかが何かしら話しかけるのだけど。
あるいはどちらも話し掛けようとして話題が出ず、なんともむず痒い微笑ましい状況になるのだが。
やっぱ朝のレインの一言かなぁ。
「あ~」
伸びをして、背中の筋肉を伸ばす。
「ほら、二人とも、一緒にセッションしよ」
適当にドラムにスティックを打ちつける。
「E、メジャー」
しばらくしてアヤちゃんが呟いて、青のムスタングにピックを振り下ろす。
キラキラと、高くて、切れのいいギターのライン。
アヤちゃんの言葉に軽く頷いて、カイリくん……いや、カイリもその純白のベースに指を這わせる。
トーンを切った甘い音。
ギターの高音に対して絶対に噛みつかない。
そんな音。
適当にオカズを入れてやると、ギターが、次いでベースが、と返してくる。
なかなかみんな息が合ってきた。
ギターが踊るのを支えるベース。
やっぱり、この二人の音は合ってるな、と笑ってしまう。
見れば、カイリもアヤちゃんも僅かに微笑んでいた。
二人な僅かに目を合わせると、私のフィルの後、珍しくギターが引いた。
それに対してベースがフレーズを揺らす。
そしてギターがそれに対し、同じフレーズを。
何度かそれを繰り返した後、私は終わりのフィルを鳴らす。
うん。この二人は大丈夫だ。
汗を拭き二人に笑いかけると、二人も笑みを返す。
言葉は、いらなかった。