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「一年三組の向坂海裡君だね」
そう言ったのは紛うことなくフェイスレスのギタリスト、レインだった。
一度収まっていた鼓動がまた高鳴り始め、耳元で叫ぶ。
というか待っていたとはどういう事なのだろうか。
足が固まったかのように動かない自分に歩み寄るレイン。
自然に手をとられ、握手。
「楽器の経験は無いだろう?」
何故この人は矢継ぎ早に突拍子の無い事を言うのだろう。
「その通りですが……その前にまっていたとはどういうことですか?」
ようやく言えたのはそれだけ。
レインは目を丸め首を傾げた。
横手から急に笑い声が上がった。
その声に驚いて横を向く。
ドラムセットに埋もれるようにショートカットの女子。
「レインの言い方は急すぎるんだよ」
ああ、そうだね。と一度目を伏せるレイン。
「君は私達のファンだろう?」
レインはにやりと笑った。
「何故……」
「何故知ってるかって?」
くすくすと笑いつつ片目を瞑ってみせる。
「反応をみていればわかるよ」
それに……と人差し指で額を軽く小突かれる。
「君の顔には見覚えがあるからね」
覚えていてくれた。
何だかよくわからない感情が胸に溢れ、顔が赤くなるのが分かった。
「入部希望……してくれるのだろう?」
猛禽のような鋭い眼差しが、抉り込むように覗く。
こう聞かれて、首を横に振れる者が居るだろうか?
ただ僕は、首を縦に振った。
「これで、四人だ」
言ってレインはその場で一回転。
回って正面に戻った時には広げた両手の右にショートカットの女子、左手には後ろに隠れていた朝のギター女子の肩を抱いている。
ショートカットの女子は満更でもない様子だが、ギター女子はとても迷惑そうな顔。
ギター女子はこっちの視線に気付き赤面。
「フェイスレスは君を歓迎するよ」
頷くショートカット。
「じゃ、メンバー紹介」
こっちが、とショートカットの方を顎で指すレイン。
「ドラマーのミヤ」
「宮原珠希ミヤって呼んで。よろしくね」
ミヤは女子
にしては上背のある方で、下手したら自分と同じくらいの身長のあるレインと並んでもそう変わりない身長。
茶色がかった髪をショートカットにし、真ん中で二つに分けている。
握手した手は思ったよりも固かった。
「んで、こっちがアヤ」
自分の後ろに隠れようとするギター女子を押し出しつつ、言うレイン。
「結城……綾です」
夜闇のような漆黒の髪の少女は小柄で、その身長はレインの或いは自分の肩くらいかそれ以下しかない。
恥ずかしさに細められた瞳は、綺麗なヘイゼル。
「パートは、ギター」
そういったのはミヤ。
「そして、私がレイン。結城璃那」
長身で、烏の羽のような髪をしたレインは、猛禽の眼差しで僕を見た。
あぁ、璃那の文字を組み替えてレインなのか。と納得しかけ、少し違和感。
「結城……?」
「ああ、言ってなかったね。私とアヤは姉妹なんだ」
なるほど、言われてみればその漆黒の髪など共通点は見つけられなくも無い。
「そして、今から君が我がフェイスレスの一員」
三人の視点が集まる。
「ベーシストの、カイリだ」
そう言って、彼女は可憐に笑った。