7-2
「おはようございます」
そう控えめに言う彼に挨拶を返す。
ちょっと肩に手を回すと、顔を赤らめ、少し体を引いた。
表情は変わらないが、わかりやすいものだ。
「どうだい?ベースの調子は」
彼の手元を見るふりをして、少し体をよせる。
彼は恥ずかしがり屋な所がある。
これは解消しないと、ライブの時大変だと思うのだが。
正直、私もどきっとしない訳ではない。
流石は男の子。といった所か。
すこし角張った体のラインが服越しに伝わる。
それを見るアヤとミヤの目が別々に冷たい。
「レイン。セクハラ禁止」
カイリ、困ってるよ。
と言ったのはミヤ。
「嫉妬かい?君だってカイリと二人きりでスタジオ入っている癖に」
狼狽するカイリ。
アヤは驚いたように、珍しく目を見開いた。
「知ってるくせに」
ミヤが呟いて膨れる。
そう、どちらかと言えばそれはカイリに対する嫉妬なのだろう。
最近はそうでもなくなってきたけど。
裾をそっと引っ張るアヤに分かったよ、と頷いてカイリから体を離す。
矢張り私はカイリにあいつを重ねているのだろうか。
いや、それだけではないと言える。
カイリのベースは決してうまくはないけれど矢張りこの音でなければ、今のフェイスレスは無いだろう。
私達のベーシストでないと。
カイリの奏でる、トーンを全て切った暖かい音が響く。
目立たないけれど、心地いい。
カイリに良くあった音だった。