6-2
手狭なスタジオ、リペアショップの二階。
汗と煙草の匂いの混じるそこで、ミヤは言った。
「アイツの話、聞きたい?」
一度連れてこられてから定例となった金曜のリズム隊練習。
汗をタオルで拭いているミヤの言葉に一瞬反応できなかった。
アイツ、という言葉に昔のベースか、と気付いて、ようやく僕は首を縦に振った。
「私が会ったのはフェイスレスに入ってからなのだけど」
と、ミヤは前置きしてから話し出した。
▽
レインがバンドに入ったのは、中学二年生のころだった。
それまでは独りギターを手に練習を重ねるストイックなギター少女だったらしい。
同じ小中学で、一番仲の良い友達だったのだけど。
とミヤは友達の後に?が着くように言った。
ともあれ、そのバンドはハードロックが主体のバンドで、その中に居たのが当時中学三年生だったアイツことユーキだったらしい。
ユーキ以外のメンバーは二十を越えたバンドマンで、自然レインはユーキと親しくなったのだろう。
そもそも、バンドに入るきっかけを作ったのはユーキだった。
レインがギターを弾けるという話を聞きつけたユーキが下級生の教室にいきなり入ってきたらしい。
そのバンドは急なメンバー脱退によりギターとベースを募集していた。
ライブハウスで数回そのバンドのライブを聞き、端から目を付けていたユーキがレインと共に加入したのだ。
ユーキは始めからベースであったわけではないらしい。
「今レインの使っている黒いレスポールカスタムあるでしょう?あれ、元はユーキのギターなんだ」
昔のレインは楽器屋で叩き売りされていたシーンのテレキャスターカスタム、つまりはアベフトシモデルを使っていた。
「ユーキも昔はプレベつかってたんだよ」
62年モデルリイシュー。
あるいはレインに合わせたのかもしれなかった。
ミッシェルの構成だ。
ユーキとレインはどんどん腕を上げていった。
「私がドラム始めたのは、そのバンドのライブを見てから」
そしてバンドは、レインが高校に入るころ、突如解散する。
それを機に、ミヤを含めた三人で軽音楽同好会を設立。
「同じ高校に入るのはつらかったよ。頭的にね」
その時にベースに専念する事に決めたユーキはアティテュードを手に入れる。
「何で“不信”なんてバンド名にしたんだろうね」
レインはその時にレスポールカスタムを手にした。
そしてユーキが高校を卒業する時、フェイスレス脱退を口にしたのだ。
▽
「ユーキとレインの関係は何だったのだろうね」
ミヤは伸びをして言った。
「あと、ユーキの影響で煙草始めたらしいんだよね」
彼が吸っていたのがウィンストンらしい。
前にミヤが彼の話を出したのは偶々ではなかったのだ。
「レインいつもはケントだもん」
とミヤ。
「この話は秘密だよ」
いつものようにミヤは悪戯気な笑顔で言ったのだ。