6-1 he
煙草で一服。
レインは煙を吐き出す。
さり気なく銘柄を見るとウィンストン。
僕はコーヒーを飲み、アヤはアイスココアのストローをくわえては放しを繰り返している。
相変わらずのミヤはサンドイッチを食べ、傍らにはギターが二つにベースが一つ。
スタジオの近くのカフェである。
薄暗い照明と味のある調度が良い感じ。
コーヒーの味も、良く分からない自分でも分かるくらい良い。
レインがマンデリンをすすり、皆何も言うでも無くくつろいでいる。
というか、疲れているのだけれど。
「つ~か~れ~た」
サンドイッチを平らげてミヤが机に突っ伏した。
バンドで一番運動量が多いのは文句なしにドラマーだろう。
ライブでのレインのアクションも凄いけど。
「カイリのベースには色気が欲しいね」
「ウエノコウジさんみたいにですか?」
アヤが少し吹き出す。
実はアヤって笑い上戸だと思う。
「確かにセクシーだけどそれは違うね」
僕の尊敬するベーシストの一人である。
プレベをピックで弾き倒すストレートなプレイスタイルには憧れる。
「そういえばアイツもどっちかって言うとそっち系だったね」
とミヤが潰れたまま言う。
アイツとは僕の前のベーシストを指すらしい。
「技巧には飽きたって言ってたね」
その結果が置き去りになった音楽室のアティテュードか。
話を切るようにジッポーで煙草に火を灯すレイン。
おっと、失言。とミヤは口を閉ざす。
僕はつとレインの横顔を見る。
アイツと呼ばれている彼とレインはどんな関係だったのだろう。
煙草をふかす彼女の横顔からは何も分からなかった。