5−2
サビに向けて一気に高音まで駆け上がる。
張り直したロトサウンドの弦が指に食いつく。
柔らかいローズウッド、高いフレット。
握り馴れたネックを絞り上げる。
ベースを傾け、一気に……
サビに入ろうとすると、ピンからストラップが脱落する。
「おわっ」
危うく落ちそうになったベースを、何とか左手でネックを握りしめこらえる。
みんなが急に途絶えたベースのビートに何事か、とこっちを見る。
「ああ、ストラップが外れたか」
レインが言って、近づいてくる。
アヤはアームを使ったせいでずれたチューニングを直していた。
「ロックピンに交換したらどうだい?」
初めて聞く言葉に首を傾げると、ミヤが助け舟を出してくれる。
「ストラップをベース本体にがっちり固定できるピンだよ」
引っ掛けるだけでなく、固定できるらしい。
「使い易くするためには手段を尽くさなくてはね」
そう言って近くに寄ってきたアヤのムスタングを指す。
「ペグはゴトーのマグナムロック、ナットはオイルボーンに交換済みだ」
「全部アーム使った時のチューニングのずれを減らすため」
アヤはそう言うとアーム上下に動かす。
そしてハーモニクス音。
やっぱりチューニングは少しずれてる。
「これでもまだ、かなり良くなってるの」
ムスタングのじゃじゃ馬っぷりはなかなか消えないらしい。
「善は急げ、だ」
僕は半ば引きずられるようにレインについていった。