1−1 RAIN
そして、春。
桜が咲く丘を歩く。
真新しい制服がちらほらと。
眩しく、暑い太陽を少し睨む。
丘を登るのは少々辛い。
こんな交通の便の悪い、しかも合格ラインちょっと上の高校を選んだのは他でもない。
フェイスレスがこの高校に居るのだ。
あのライブの後、フェイスレスの事を調べたのは言うまでも無い。 入学から暫くして、今日は体験入部の始まる日。
あのようなレベルの高いバンドがしがない(というのも失礼だが)高校の一部活とは信じられないが確かに、軽音楽部とあったのだ。
ギターのソフトケースを担いだ真新しい制服の女子を追い抜く。
自分以外に軽音楽部に入ろうという人が居るものか、と思いつつ少しだけ横目で見る。
黒い長髪、ハシバミ色の瞳。
白い顔は坂を上るのに必死で淡く色づいている。
視線に気付き顔を上げる少女。
何となく目を逸らして坂を上る。
桜も散った正門が見えてきた。
▽
放課後。
少し、遅くなってしまったがまだ軽音楽部は活動しているだろうか。
少し不安に思いつつドアの前に立つ。
なんとなく先輩から申し送られた腕章に触れる。
そう、なんだかんだしている内に(主にじゃんけん)生活委員、実質風紀委員にされてしまったのだ。
深呼吸を一度。ようやくドアに手を伸ばした瞬間。
ドアが開く。
最初に見えたのは、風になびく黒髪。
鳩尾に軽い衝撃。
一瞬呆気にとられて、下を見る。
白い顔があった。
鼻先が僅か赤いのはぶつかったからか。 飛び上がって部屋の奥に走り去る女の子。
一瞬だったから分からなかったけど朝のギターケースの女の子じゃなかったか?
そして、部屋の奥ソファの上に足を組み、両手を翼のように背もたれに手をかけている影。
逆光。
けれどもあの長身は……
「まっていたよ」
そう、彼女は言った。