5−1 practice
「ライブを、やろう」
僕はレインのその言葉に反応できずベースを取り落とす。
「久し振りだね」
ミヤが笑って言う。
アヤはと見ると、僕と同じような反応をしていた。
「前までのオリジナルのレパートリーはこなせるようになったし」
そう言ってレインは僕とアヤを交互に見る。
「ライブをやらないのは、損だ」
ニヤリと笑うレイン。
新曲も一曲くらい欲しいな。
などと呟いている。
「……いつ?」
アヤが困惑気味な顔で尋ねる。
「二ヶ月後、だね」
レインが顎に人差し指を当てる。
「土曜、だね」
あっ、と言う間だったな。と現実逃避。
「そのためには」
皆の視線が僕に集まる。
「ですよね」
ぼそりとつい、ぼやく。
「特訓。かな」
ミヤが真顔で言うので、かなり恐い。
「そうだね、フェイスレス流スパルタ特訓……」
レインが意地悪く笑う。
「……冗談だよ」
そんな顔するな、と肩を叩かれる。
そんな酷い顔してたのかな。
「ギターが二人いるんだからミスター・ビッグみたいにお姉ちゃんがカイリの後ろから……」
ミスター・ビッグのライブで、ビリー・シーンの後ろから手を回して、ボーカルのパットがベースを弾くシーンがあったのだ。
そのアヤの発言にレインが僕の後ろから手を伸ばすのを考える。
「……顔、赤いよ?」
ニヤニヤするミヤ。
あれは後ろから抱きつくようなものだ。
「どうかしたのかい」
レインが明らかに分かっている表情で僕の肩に顎を乗せる。
本格的にベースが手から滑り、ストラップが肩に食い込んで何とか止まる。
そうこうしてる内にその日の練習は終わった。
ライブまで後2ヶ月。
夢のような話だった。