4−4
僕が疲れきって指を止めると、スタジオに満ちていた音が引いていく。
ミヤのハイハットの音が名残惜しそうに響き、やがてそれも消えると静寂が場を満たした。
夢中になって弾き続け、指弾きした右指が、スライドを多用した左指が、痛い。
なんとなく、汗で髪の張り付いたミヤの顔が直視できなかった。
そのどうだ、といわんばかりの口元は見えたけど。
「どうだ」
ニヤニヤと笑ったミヤは本当にそう言う。
僕は何も答えられず、ベースを肩から下ろす。
「楽しかったでしょ?」
頷くしかない。
それに、とても有意義だ。
ミヤはタオルを取り出して、汗を拭いている。
「思ったより時間経ってるな」
ミヤはそう言って立ち上がると、帰ろっか、と言って立ち上がる。
店を出て、歩く間も僕の指に、体に刻まれたビートが心地よく響いていた。
ミヤの家の前につく。
「それじゃ、また明日、だね」
とミヤが笑って言ったときだった。
「珠希はまだかえらねぇのか!」
ミヤの家からそんな怒鳴り声が聞こえた。
ミヤの、いつもの、場を和ませる笑みが強張った。
「じゃ」
それだけ言うと家に向かうミヤ。
まるで後ろめたい事を見られたかのように。
その背中に、僕は言わなくてはならない事を思い出す。
「……ミヤ」
なんと呼ぶか迷って、けれどその呼び方で呼び止める。
「なに?」
ミヤは振り返る。
「ありがとうございました」
一瞬首を傾げ、そのあといつもの笑みを浮かべる。
「過去形にするにはまだ早いぞ」
そしてフェイスレスを結ぶ、名を呼ぶ。
「カイリ」
少しだけ恥ずかしそうにミヤは言うと背を向けて家の中へと消えていった。
僕も、少しだけ立ち止まった後に家路へとつく。
アヤとミヤとそれにレイン。
何時の間にか、僕には失いたくない物ができていた。
漠然とした、理由というものが。