4−3
着いたのは小さな楽器店。
街中にあるレインのバイト先とは全然雰囲気が違う。
「タマちゃん、いらっしゃい」
小狭いスペースにはギターが並び、少ないながらベースも並んでいる。
暖色系のライトに照らされたそれらの共通点は、古い。だろうか。
「タマちゃんってのはやめてくれないかな、叔父さん」
恥ずかしそうに頭を掻くミヤ。
「後ろのは彼氏?」
「違います」
「早いよカイリくん!?」
は、つい。
「私ってそんな魅力ないかな、叔父さん」
「いやいや、当たった男が悪かっただけだって」
ざっ、と店内のギターを見ると、ただ古いだけに留まらず、どうやらヴィンテージの域に入るものもあるようだ。
「ここは、私の叔父さんが経営するリペアショップなんだ」
六十年代後半の物というジャズベースを見つめているとミヤが寄ってきて言う。
「リペアショップ?」
「そう。調整やパーツの交換、はたまたフレットを抜いたりとか」
なるほど、そういう店もあるのか。
「叔父さん、スタジオ借りて良い?」
「勿論」
ミヤが鍵を受けとり、僕に歩くよう促す。
気づかなかったが階段が店の奥にあった。
「防音が完璧じゃないんだけど、宣伝にもなるからって貸してくれるんだ」
そう言って笑うミヤ。
「それに、家でやるわけにもいかないしね」
ドアを開けるミヤの顔は窺えなかった。
重い防音扉を開くと、ドラムセットを中心にアンプに囲まれたそこは二、三人入るのがやっと。
「いつも、ここで練習してたんですか?」
「そういうこと」
ドラムセットの脇に掛けられていたスティックを取り、回転させるミヤ。
「さ、やろうか」
また練習か、と少しげんなり。
やっている間はいいのだが、ぶっ通しで数時間やると疲労の波が来るのだ。
「個人練習はよくやったでしょ?」
そう言ってスティックを叩きつける。
ドラムだけで音楽を奏でるような音の連鎖。
「スキルがあっても、私達リズム隊がばらばらじゃ意味ないならね」
僕がベースを取り出す間、どすどすとバスドラムを踏み鳴らしていた。
「さ、行くよ」
セッションなどと言うものは出来ないので自然、いつものレパートリーになる。
ベースを爪弾く。
ドラムに耳を澄ませ。
ふと気づく。
ギターを含む四人でやる練習とは勝手が違う。
僕が出る所では巧妙に引き、僕が引くと、良いオカズを入れてくる。
リズムキープに収まらないミヤのプレイを押さえ込んだり込まれたり。
譜面を睨んでいては分からないニュアンスがすんなりと頭に入ってくる。
ベースとドラムは同じリズム隊。
その意味を痛感する練習だった。
汗とハイハットの輝きの中に、ミヤは、居た。