3−5
つまらない授業も終わり、放課後。
いつも通りの詰まらない日常。
中学までの僕はこれが大嫌いだった。
いや、今もか。
目標を見いだせず、どうにも無為に過ごしているようにしか思えない。
けれども、今の僕にはようやく打ち込める物が見つかったのだ。
純白のベースギターは、いまやなくてはならぬ半身。
部室で一人爪弾く内に夢中になっていたらしく、アヤが入ってきたのにすらしばらく気付かなかった。
「珍しいね、僕のが先に来てるって」
アヤはこくりと頷いてギターの準備を始める。
いつも通りの反応。
慣れてきたかなと思っきた所に拍子抜けだけど。
手慣れた様子でチューニングをするアヤ。
マーシャルアンプに直で繋いだムスタングをアヤは軽く弾く。
手首の運動を済ませるとアヤはこっちを向く。
いつもの、合図。
他の人から始めたのでは僕がついていけないので何となくこのやり方が定着したのだ。
それに、一番レパートリー少ないのも自分だし。
何にするか悩みつつ、ミュートしたままアタック音でテンポを刻む。
まずはやはりこれだろう。
ミュートを外して一音目。
焦らないようにゆっくりと。
スタンドバイミー。
ベースのイントロだけで分かる珍しい曲のひとつ。
音楽を聞かない人でもイントロを聞けば思い出すだろう。
爪弾く指は流れるように。
ベースはドラムと共にリズム隊と呼ばれる。
特に二人きりの場では、ベースが崩れれば演奏はめちゃくちゃになってしまう。
その難しさを今、実感していた。
目を合わせて、最後数小節。
ベースは同じフレーズの繰り返しだからやりやすい。
音が切れた瞬間に次の曲。
スライドから入る印象的なフレーズ。
パンクの名曲、クラッシュのロンドンコーリング。
ベースラインの印象的なイントロはまた、ベースだけで分かる曲のひとつだ。
テンポキープに必死になりつつ弦を弾く。
駆け足になりつつも必死にもとのテンポに戻す。
手のひらが汗ばむ。
何とか最後まで弾ききる。
繰り返しのフレーズは多いものの小指まで使うのでなかなかに難しい。
何とか、最後まで駆け抜ける。
けふん。とアヤが咳払い。
ひとつ、目を合わせる。
一拍を空ける。
いつも弾けないながら最後の曲としてやるナンバー。
ボディを叩いて四カウントを取る。
凄まじい速度で叩き付けられる三連譜。
振り落とされないように、暴れ馬の手綱を引き絞る。
けれども置いていかれないように。
疾風のようなイントロを弾ききれば、メロディックなベースライン。
ギターとベースのユニゾンするパート。
互いの楽器が一機のように曲が紡がれる。
一体感。
目が合う。
アヤは、笑っていた。
その自然な笑みを見るのは始めてだった。 今までにない感覚。
ボディを汗に濡らし、弾くベース。
フレーズを勝手に手が奏でる。
疾走する曲が最後の数小節を刻み、名残惜しそうにのばされた一音。
耳が痛いような静寂にホワイトノイズだけが響いた。