3−4
まだ数回目の練習の時、レインが言った。
「あ、来週から私とミヤは修学旅行に行くから」
まだ振動を残しているベースのボディを押さえて振動を止める。
「早いですね、修学旅行」
「そうかな、受験にできるだけ当たらないようにって配慮だと思うけど」
ミヤがスティックをジャグリングしながら言う。
「と、言うわけでアヤと君で二人きりなわけだ」
愚妹を頼んだよ。
と言ってにやりとするレイン。
何も言わずスルーするアヤ。
ペットボトルのお茶を飲んでいる。
「あら、面白くないな」
レインがそう言って苦笑。
漆黒のレスポールをかき鳴らす。
トゥ・ビー・ウィズ・ユーのイントロ。
「何故その曲?」
アヤが深青のムスタングで唱和しながら問う。
「何となく?」
まだアドリブできないし、レパートリーに無いので僕はお手上げ。
その内ミヤもどかどかとバスドラムを鳴らし、入り込む。
ため息ひとつ。
自分には入れない領域だ。
アヤが小さく咳払い。
少しずつスローダウン、フェードアウト。
「はてさて、今日はこれくらいにしようか」
いつもより少し早い。
少し物足りないかな、と思いつつ横目でアヤを見る。
ペットボトルのお茶を空にしていた。
「私達も準備があるからねー」
ミヤが言ってスティックをバックに収める。
スキルの差を実感してきたので自主トレしとかなくては。
そう思いつつベースをケースに入れる。
「それでは、一週間後、ですね」
「ああ、くれぐれも愚妹をよろしくな」
何かくどいな、と思いつつ僕は頷いたのだった。