3−3
朝の練習を終えて、アヤと教室に入る。
クラスメートの少し驚いた顔。
名前順の席なのでアヤとは離れて座ることになる。
「向坂って結城と仲良かったっけか?」
前の男子が椅子に後ろ向きに座って言うと、横の男子が追随する。
「そうそう。結城って顔は結構かわいいけど」
なぁ。と顔を見合わせる二人。
「なんか近寄りにくくね?」
「中学の時なんか半分くらいしか出席してなかったよな」
何となく、その噂というか取り留めの無い話に苛立ちを感じる。
「この話は止めないか」
自分の思うより冷たい声。
何に苛立っているのだろうか。
クラスメートはぎょっとした顔になってしどろもどろになりつつ前向きに座り直した。
軽くため息を吐く。
やってしまったかな。
適当に話を合わせておけば良かったか。
いや、けれどそれはできない相談だと、間違い無く思った。
鞄から教科書を出す。
一時限目は数学……
宿題をしていないことに気づく。
「まずいな」
ぼやいてみても始まらない。
矜持から言って気が引けるが背に腹は変えられない。
立ち上がる。
「あ……」
アヤと言いかけて、止める。
「結城」
呼びかけるとアヤは僅かに視線を向ける。
「アヤでいい」
さっきのクラスメートが驚く気配があった。
「じゃあ、僕はカイリなわけだ」
海裡、みのりを読み替えた、特別な名。
「で、何?カイリ?」
自然にそう答えてくれるアヤが、嬉しかった。
「宿題忘れちゃってさ。見せてくれない?」
ん。と肯定に首を縦に振ってアヤは鞄を探る。
ちら、と何か薬がみえた。
「はい」
アヤからプリントを受け取る。
薬の事を聞こうとした時、ちょうどチャイムが鳴る。
この疑問に、後々ああなるとは思ってもみなかったのだ。