3−2
朝の静謐な空気。
静謐だと騙されているだけかも知れないけど。
音楽室の防音扉を開くと、雨のように降り注ぐ陽の光の下、レインがベースを爪弾いていた。
漆黒のボディの見覚えのないベース。
アンプに繋がれていないけれど、微かな弦の音が静寂に響く。
二音を重ねた単和音。 静かな歌。
……光に指があれば心を引きちぎられていただろうに。
彼女の弦を爪弾く指は途中で止まる。
「やぁ、おはよう」
レインは笑って言う。
けれどもその笑顔には隠しきれない悲しみが覗く。
それに踏み込む勇気の無い僕は、だから、違う質問をする。
「そのベースは……?」
それに気づかぬレインでもなく、目を細める。
「アリアプロのMAB380。安物さ」
右片手でベースを提げたレインは少し視線を迷わせる。
その視線の先にはアティテュード、あのベースがある気がした。
レインのベースはガンメタルだった。
ソープバー型のピックアップが二つ。
ハムバッキングだろう。
けれどシルエットはプレシジョンベースあるいはジャズベースに似ている。
「練習するには悪くないベースだよ」
視線を戻してレインは笑う。
さ、練習しようか。
そう言ってレインは立ち上がる。
「ベースも、解る範囲で教えるよ」
そう言ってレインはスタンドにベースを立てかけ、自身のギターを取り出す。
漆黒のレスポールは矢張り彼女によく似合った。