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prologue faithless
それは鮮烈な体験だった。
たまたま、従姉が出るからという理由から訪れたクラブハウス。
ポップスがメインだと言う中で異質のオーラを纏っていた。
照明を浴びて背中を見せている長い黒髪の長身。
スカートを履いているからには女性なのだろう。
その脇にはベースを持った影。
やがてその後ろにいるドラムスがスティックを打ち鳴らして4ビートを刻む。
かき鳴らされるギター。
漆黒のレスポール。
首筋に暖かい油を注がれたかのように甘美な痺れが走る。
歪んだサウンドがアンプから吐き出される。
ディレイがかかり、その一人だけのギターが何人ものサウンドを奏でる。
知らず体が動く。
そんな力が、それにはあった。
▽
演奏が終わった事には気づかなかった。
ただ最後にベーシストがバンド名を言ったことだけはかろうじて覚えている。
「フェイスレス」と。