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8.超絶ぼっちな僕、閻魔大王を目撃する


 地獄だ。ここはきっと地獄に違いない。釈迦は『苦より苦に入り、冥より冥に入る』と言ったらしい。つまり毎日生きがいがない苦しい人間は死後も地獄に落ちるというなんとも救いのない話だ。それだったらずっとぼっちの僕は地獄確定じゃないか、ぼっちに厳しすぎるぞ釈迦さん。


 だけど、だけれども、地獄の閻魔様も、こんな怖い佐々木さんに睨まれたら、思わず天国に行かせちゃうんじゃないだろうか。というか佐々木さんが閻魔大王の生まれ変わりなんじゃないか。


 さっきから全くまとまりのない事を頭で考えている。それほど僕の脳内が緊張しているのだ。

 目の前にいる佐々木さんに、僕は心底怖がっているのだ。


「ねぇ、聞いているのかしら。九条君」

「え、ええと、なんだっけ?」

「この女の方は、あなたとどんな関係があるのかしら」

「え、ええとだね。有里香はその……うーん、なんだろう」


 いや、本当に有里香ってなんの関係なんだ僕は。昨日知り合ったばかりだし、勿論友達なんて大それたものじゃない。形容しがたい関係だよなぁ。


「なんであんたに私と幸村の関係を言わなきゃいけないのよ。それとも何? もしかして私に、嫉妬してるの?」


 いつのまにか泣きそうになっていた有里香の様子は元に戻ったようで、一転して攻撃に出た。たくましいな。


 驚いたことに佐々木さんは、言葉が詰まっていた。珍しい、あの口がマシンガンそのものみたいな佐々木さんが言葉に詰まることなんてあるのか。と思えば、すぐに佐々木さんは胸の前で腕を組み、いつものようにクールな表情で有里香を見つめる。


  「……嫉妬? あり得ないわね。私は飼い犬が知らない人について行って心配なだけよ。毒でも盛られるかもしれないもの」

「えっ、ちょっと待って。僕って佐々木さんのペットだったの?」

「今のは言葉の綾よ」


 いや、明らかに僕への普段の想いが込められていた気がしたんだけれども気のせいかな。


「ふうん、じゃあ私が幸村と付き合ってもいいんだ?」


 何を言ってるんだ有里香は。しかも言いながら照れるんじゃない。普段言いなれてないのがバレるぞ。


「……好きにすればいいじゃない。それにしても意外だわ。こんな冴えないぼっち君の事が好きな人が人類にいるなんてね。あなた九条君のどこが好きなの?」

「え……えーと……」


 そこで詰まるな!

 チラチラ僕を見るな! そんなに僕のいいところってないのか! 泣いてもいいかな!


「答えられないのね。本当に好きなのかしら」

「そ、それは……」

「そもそもあなた、九条君とはいつ知り合ったの?」

「き、昨日……あっ」


 馬鹿、有里香のやつ、口を滑らせやがった。


「昨日? へぇ、昨日知り合ったのにもう好きなの」

「ひ、一目惚れってやつよ」

「九条君に一目惚れ? 視力検査に行った方がいいわ」


 さっきから話が長引くにつれて僕のヒットポイントが削れていくんだけど。

 有里香の方を見てみると、もう沸騰しそうなくらい顔が真っ赤になっていた。


「あー!!! もう!! ムカつく! ええそうよ! 私はこんな奴好きじゃないわよ!」


 沸騰した。

 そんなにはっきり言わなくても良いじゃないか。


「私はね、あんたが茶道部に入ったとかいうデマを流したせいで、茶道部退部させられたんだからね!」

「ど、どういうことかしら」


 おっと、佐々木さんが動揺してるぞ。


「あんた見たさに来た男子どもを追っ払ってたら、茶道部としては暴力的過ぎるとかいう理由で退部になったのよ!」

「そう……気の毒ね」


 どうやら佐々木さんも少しは責任を感じているらしい。


「尾行してみたらあんた文芸部じゃない! 責任取りなさいよ」


 今さらっと尾行とか言ってなかった?

 僕の気のせいかな。


「ち、ちょっと、あなた。そんな事このクラスで言ったら……」


 佐々木さんは周りをキョロキョロと見ながらそう言った。

 クラスメイト達は今の話をちゃんと聞いていたらしい。


「え、佐々木さんて茶道部じゃないのか?」

「通りで見ないと思ったが……」

「文芸部だったのか」

「じゃあ今日からは文芸部に突撃だな」


 そんな事をざわざわと話している。

 やれやれ……面倒な事になってきたぞ。佐々木さんは怨みのこもった視線を有里香に向けていた。


「な、何よ。あんたが悪いんじゃない」

「ええそうね。それで? 責任ってあなたは私に何を求めてるのかしら」

「最初はあんたの悔しい顔が見れればよかったんだけど、考えが変わったわ。私を文芸部に入れなさい!」


 な、何ぃ!?

 有里香は堂々と胸を張ってそう言った。僕がびっくりしている一方で佐々木さんは淡々と返事をした。


「いいわよ」

「そうね、あんたは駄目って言うでしょうね、けどね……えっ?」

「いいって言ったのよ」

「いいって、え? 本当に? 私が文芸部に入っていいの?」

「ええ。あなたは私たちに必要な存在だわ。今までの事はごめんなさい。是非来てくれると有難いのだけれど」


 ば、馬鹿な……あの佐々木さんが謝っただと? 謝った上に必要な存在などと肯定を含む発言をするだと?

 どうしたんだ、まさか別人格が出現したのか?


「ふ、ふーん。ま、まぁあんたがそこまで言うなら別にいいわよ。わ、私も悪かったわね。勘違いしないでよね! 別に全部許したわけじゃないんだから!」


 有里香が満更でもない顔してる!!

 ていうかすっごい嬉しそう。


「なら早速今日から部室に来てもらいましょう」

「わ、わかったわ。行ってあげる」


 結局、有里香は上機嫌のままお昼ご飯を食べてそのままスキップして自分の教室へ戻っていった。なんて単純な奴なんだ。


「計画通り……」


 有里香が去った後、佐々木さんはまるで名前を書いただけで人を殺せるノートを持っているかのように邪悪な笑みを浮かべた。

 その笑みがなんだったのかは、放課後に知る事になる。


 そして、放課後。


「ち、ちょっとー!! いつまでこうしてればいいのよーー!!」


 部室の外で、モップを持ったまま戦闘態勢を取っている有里香。その近くには佐々木さんを見に来た男子生徒達がうようよといた。


「彼らが諦めるまでよ。有難う、あなたはやっぱり私たちに必要だったわね」


 佐々木さんは、クマのマーチを食べながら楽しそうにそう言った。やっぱりこの人は閻魔大王の生まれ変わりに違いない。


 というわけで、なんだかんだで僕たちの部活に部員が一人増えた。


九条君全然喋ってない…。

ポイント下さいポイント下さいポイント下さい(切実)

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