6.超絶ぼっちな僕、共感する
「このままだと廃部?」
僕はソファに座りながら藤原部長にそう聞き返した。
いつものように、放課後になった僕と佐々木さんは部室に集まっていた。
「うむ、廃部じゃな。だって私たち三人しかおらんし」
藤原部長は椅子に座りながら本を片手にそう言った。
そういえば部活って五人いなきゃ駄目なんだっけ。
「いつまでなんですか集めなきゃいけないのは」
「今月いっぱいまでじゃな」
となると、あと三週間くらいで二人集めなきゃいけないのか。今は五月だ、部活動は五月中に一応入るかどうかを決めるようになっているからそれに合わせているのかな。
「それで、そろそろ聞かせて欲しいのだけれど、なんで藤原部長は部員を集めようとしなかったのかしら」
同じくソファに座っている佐々木さんがそう尋ねた。そういえばこの部活に僕は一度断られているんだよな。
「そ、それは……そのじゃな。まぁなんというか人が足りなかったんじゃ」
「嘘ね。現に九条君は入部を断られているし、彼の他にも入部希望者はいたんでしょう? ひょっとして5人くらい集められてたんじゃないの?」
「う、うぬ……ぬぬ」
「私にはなんとなくわかっているわよ藤原部長。あなたが部員を集めようとしなかった理由」
佐々木さんは得意げな顔でそう言った。
え? わかってるのか。僕には全くもってさっぱりなんだけれど。
「ぬぬ……まさか」
「私はこっそり今日、あなたのクラスに観察しに行ったのよ」
佐々木さんが二年生のクラスに? 騒ぎになりそうなものだけど、ならなかったのかな。
というか相変わらず彼女の行動力は凄いな。
「休み時間は誰と話すこともなく、一人でご飯を食べて、後は寝ていたわね」
「み、見られていたのか」
「私はあの寝方はよく見ているから知っているわ。あれは寝たふりね。そうでしょう? 藤原部長」
言葉の途中で佐々木さんはちらりと僕の方を見た。ああそうかい僕の寝たふりと似ていたってことかい。
「な、何を適当なことを言ってるのじゃ! そ、そそんなわけがなかろう」
「やめたほうがいいですよ部長。僕の寝たふりを佐々木さんは全部見破っているんですから抵抗は無駄です」
自分で言ってて悲しくなる発言だった。
佐々木さんはおもむろに人差し指を部長に向けた。
「つまり藤原部長。あなたには――友達がいない!」
「ず、ずがーん!」
体全体でのけぞった挙句に自分で効果音を出しだぞあの部長。
そして唐突に目元を手でぬぐい始めた。
「うっうっ、そんなはっきり言わなくても良いじゃろが……お前たちは後輩じゃろ……うっうっ」
なんだか泣き始めたぞ。僕はいたたまれなくなって部室にあるティッシュを何枚か取ってきて藤原部長に渡した。部長は涙声で「ありがとう」って言いながら鼻をかみ始めた。ちょっと可愛かった。
佐々木さんを見てみると、全く悪びれる様子もなくいつも通りの表情をしていた。この人は鬼か?
「泣くほど悔しがらなくても大丈夫よ。なぜなら私たちも友達がいないから!」
佐々木さんは胸に手を当てて自信ありげにそう言った。
なんで自信満々に言えるんだこの人は。というより自然と僕がぼっちな事もばらされてしまった。
「な、なんじゃとぅ!?」
部長も部長で素直に驚いていた。さっきまで泣いてたのはなんだったんだ。
「男の方は見た目からしてぼっちなのはわかったが、まさかお前もぼっちだったとは……」
さりげなく僕のことをディスるのはやめてほしい。
「あなたは新しい部員が入ってきて、いつのまにか新入生だけのコミュニティが出来てて、自分以外で楽しそうにされるのが怖かったのでしょう」
「そ、その通りじゃ」
「その点私たちは友達が出来る気配も無いから大丈夫よ」
「本当か? 本当に私以外できゃっきゃして、『藤原さんも可哀想だから入れてあげようよぉ〜』とかいうクソ茶番をされずに済むのか!? 私以外の全員でパーティをしていたりすることはないのか!?」
「え、ええ」
共感できすぎて泣いてしまいそうだ。部長もいろいろ辛かったんだなぁ。
「新学期の最初だけちょっと話しかけてきてその後一切話しかけられないなんて事もないですよ!」
僕も思わず会話に参加してしまった。
すると部長は感極まった様子で僕の手をがっちり掴んだ。
「お前、お前! わかっとるなぁ……!」
「そりゃ日常ですからね」
「ぬぬ、決めたぞ。正式にお前ら二人の入部を認める!」
「まだ認めてなかった方が驚きだわ」
佐々木さんはそう言いつつも少し嬉しそうだった。
「改めて自己紹介をするのじゃ。私は部長の藤原小鳥じゃ! 気軽に小鳥部長と呼んでくれてもいいんじゃぞ」
「じゃあ小鳥って呼ぶわね」
「せめてさんを付けてくれんのか!?」
「僕は小鳥部長って呼びますよ」
「ふむ、いい心がけじゃぞ九条。そういえばお前の下の名前はなんというのだ?」
「幸村です。九条幸村」
「そうか、じゃあこれからは幸村と呼ぶぞ」
「え……? あ、は、はい」
思わずどきりとしてしまった。女の人に名前で呼ばれる事なんてないからだ。
「何を照れているのかしら九条君。あなたはそんなに軟弱な人間ではないと思っていたのだけれど」
何故か佐々木さんに怒られた。そんなに顔に出ていたかな。
「佐々木の方は下の名前はなんというのじゃ」
「何故教えなきゃいけないのよ」
「どうせ書類を見ればわかる事じゃ。教えてくれなのじゃ」
「まぁいいけれど……雫よ。佐々木雫」
「そうか、雫か。可愛らしい名前じゃな! では雫、幸村。今から私たちは文芸部として頑張っていくのじゃ!」
急に小鳥部長がやる気を出し始めた。とてもイキイキしている。
「話を聞いていなかったの小鳥。というかあなたが話始めたんだけれど、あと二人部員がいなきゃ廃部なんでしょう」
「そ、そうじゃった……どうしよう」
小鳥部長は本当に忘れていたらしい。自分で最初に言い出したのにね。
「入ってくれる人を探さなくてはね。ただし条件があるわ。男は駄目、私がいるからね。あとリア充は駄目、私たちが死んでしまうわ」
「むぅ、難しいのう」
僕たちのような境遇の女の子か。あまりいなさそうなんだけれど。まてよ……?
「小鳥部長。前僕の事を数少ない入部希望者って言ってましたよね? てことは他にも希望者いたんじゃないですか?」
「ん、確かにいたぞ。3人ほど。2人が女子で1人が男子じゃったな。男は駄目なんじゃよな。女子の方は、1人は凄い口が悪くて怖かったのう。もう1人は優しそうな子じゃったぞ」
「それならとりあえず優しそうな子ですかね。ねえ佐々木さん?」
「そうね、名前はなんて言っていたのかしら」
「なんじゃったかな。ちょっと待ってくれ、入部届けを一応預かっているから」
入部届けか……僕も一応出すには出したからな。小鳥部長は、部室にある備品入れのような場所から紙を見つけて持ってきた。
「これじゃな……ええと、優しい方は仁科芽依じゃな……怖い方は、宮本有里香じゃ」
「仁科さんって言うと……もしかして僕たちのクラス委員長?」
「名前からしてそうみたいね。ふうん……」
佐々木さんは興味深そうにそう言った。
僕たちのクラスにも委員長はいる。仁科さんは活発な人で、新学期が始まって早々にクラス委員長に決定した。見ているとこちらも元気になるような気がする不思議な人だ。
「明日聞いてみましょう」
というわけで次の日、僕たちは昼休みに委員長に話しかけに行くことになった。委員長に話しかけに行こうとしただけでクラスメイト達はざわついた。
委員長は、髪を2つに縛って横から垂らしている、おっとりとした子だ。
「仁科さん、今いいかしら」
「佐々木さんが話しかけてくれるなんて珍しいね。それに九条君も。どうしたの?」
委員長が僕の名前を覚えていてくれたなんて、感激だ。
「ちょっと廊下で話したいの」
「いいよー」
委員長は特に怪しむこともなく、廊下に出た。
「単刀直入に言うけれど、仁科さん。文芸部に入ってくれないかしら」
「ええ? どういうこと? 文芸部、なんで? 佐々木さんって茶道部じゃないの?」
佐々木さんの言葉に委員長も驚きを隠せないようだ。
というかまだ茶道部だと思われているのか。茶道部に申し訳なくなってきたな。
「あれは嘘よ。私は文芸部」
「ええ! そうだったんだ。実はね実はね、私も最初は文芸部に入ろうとしたんだよ!」
「知ってるわ」
委員長がせっかく話を広げようとしてるのに、一言で済ませるとは……。僕も側から見たらこんな感じなのだろうか、少し反省しよう。
「あ、知ってたんだ! でもね、部長さんが廃部って言うから入らなかったんだよー。なんで佐々木さん入れたの?」
「文芸部への情熱と熱意を伝えたら入れてくれたわ」
あの脅しを情熱と熱意と言うならそうなんだろうね。
「そっかー、私情熱と熱意足りなかったのかなー」
「そんな事はないと思うわ。だからこそ私が今、仁科さんをスカウトしに来ているのよ。部長があなたの情熱を覚えていたのね」
大嘘をついているぞ佐々木さん。怖くなってくるな本当にさ。
「えーそうなの! 嬉しいな! けどごめんね、もう私バスケ部に入ることにしちゃったの!」
「バ、バスケ部。何故かしら。180度違う部活に思えるのだけれど」
「誘われたからやってみたらこれが面白くてね! だからごめんね、私は入れないよ」
「そ、そう……わかったわ、ありがとう」
そうか、既に他の部活に入っている可能性もあるのか。それにしてもバスケ部とは……まぁ委員長ならなんでも出来そうだけど。
委員長とは別れて、僕たちは作戦会議をすることになった。
「弱ったわ……」
「まさかバスケ部に入ってるなんてね」
「いえ、まさかあんなに友達が多そうなオーラいっぱいだったとは……」
「そこ? 確かに委員長は友達沢山いるだろうけど、優しそうじゃないか」
「甘いわね。あんな優しさに私たちが耐えられるはずがないわ。まばゆい太陽の前では所詮イカロスも堕ちるのよ」
「なんだよその例え。まぁけど、確かにあの真っ直ぐさに僕も耐えられるかはわからないな……」
委員長は僕たち陰の者にとって眩しすぎたようだ。
とはいえ、どうしようか。残っているのは小鳥部長が怖かったと言っている宮本さんだけだ。
「とりあえず明日また探すことにしましょう。あまり気は進まないけれど、宮本さんを」
「そうだね」
こうして僕たちは、この日の捜索を終えた。
放課後になり、部室に行くと小鳥部長は一人でトランプタワーを作っていた。だが僕たちが部室の扉を閉めた時の風でトランプタワーは完成間近で倒壊した。
「のわーっ! あと少しじゃったのに!」
結局今日の部活は、部長の恨み言をひたすらに聞かされてしまった。やれやれ、こんな事で部員が集まるのだろうか。
元気っ娘な美女委員長、現実ではなかなかいないよね
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