超絶ぼっちな僕、超絶お金持ちの世界を知る【挿絵有】
放課後。
部活動を終えた僕たちは――といっても何も活動していないのだが――各自帰宅しようとしていた。
すると突然、有里香が、
「あ、私明日部活行けないからよろしく」
といった。
珍しい。この中で1番部活を気に入ってそうなのに。
「どうしたのじゃ? うんこか?」
「なんでうんこなのよ! 明日放課後ピンポイント予約制のうんこなんてあるわけないでしょーが!!」
いつも通りの小鳥部長と有里香の掛け合いが始まった。
「やめなさい小鳥。有里香はう……大便なんか人生で一度もしたことがないんだから」
と割り込む佐々木さん。
「そんなわけないでしょ! めちゃくちゃするわよ!!」
め、めちゃくちゃするんだ……。
当たり前なんだけど、有里香みたいな女の子がそういうこというと、なんかあれだな……ちょっと変な気持ちになるな。
「君たち、レディーがあまりそういう話をしない方がいいと思うよ。ほら見たまえ、九条君が有里香の排便を想像して興奮してしまっているじゃないか」
な、何を急にとんでもないこと言い出してるんですか美雲さん。
すると途端に有里香の顔が真っ赤になり、僕の首を絞めながらぶんぶん振り始めた。
やめてください、首が取れてしまいます。
「キモい!! 幸村! 変態! スケベ!」
「あばばばばばば。あ、あ、あ有里香、やめぺぺばば」
頭が回るぅ。
「なははははは!! 幸村の頭がメリーゴーランドみたいで面白いのう!!」
「くすくす……馬鹿ねぇ」
「ふふっ、悪いことをしたなぁ」
そう思うんなら誰か止めてくれ!!!!!
結局有里香が疲れてやめるまで続いた。
「僕の首、伸びてない!? なんかしならせ過ぎたせいですごく伸びてるような気がするんだけど!?」
首元をさすりながら周りに尋ねる僕。
佐々木さんが笑みを抑えられずに答えた。
「大丈夫よ。カヤン族くらいしか伸びてないわ」
「それって首長族の人たちじゃないか!! 伸びすぎだろ!!!」
「まぁいいじゃない。何事も上昇志向は大事だわ」
「首の上昇志向なんて聞いたことないよ!! キリンくらいだよ!!」
「最近の説ではキリンは首が伸びたのではなく、首が長い個体が生き残ったという話だよ、九条くん」
うるさいよ! なんだそのワンポイント美雲知識は。
「えーとそれで、なんじゃったかな。そうだ。有里香、明日なんで休むんじゃ?」
え!? 僕の首は? 終わり?
駄々をこねてもしょうがなさそうなので、有里香の話を聞くことにした。
首はまぁほっとけば治るだろう。
「あー、実はね、明日親の紹介する人と会わなきゃいけないのよ」
「ほう? どんな奴じゃ?」
「それがねぇ、ここだけの話にしてよ? ……あ、ここ以外に話す人たち、あんたらいないか! ははは!」
「お前もじゃろーがい!!!」
「あはは、ごめんごめん。たぶん名前は聞いたことあると思うんだけど、四谷電機って会社」
「超有名企業じゃな」
四谷電機。日本を代表する超大手電機メーカーだ。うちの家電にももちろん四谷製が混じってる。
「その社長の息子が、私に会いたいんだってさ。だから明日の放課後はそれで行けないってわけ」
「し、社長の息子!? 御曹司って奴じゃ!?」
そ、そういえば有里香って大金持ちだったな……アホすぎていつも忘れるけど。
「はやい話がお見合いってことね。流石上流階級のお嬢様ってところかしら」
「雫だって似たようなもんでしょ。ま、別にお見合いっていうほど堅苦しい感じでもないわよ。定期的にこういう紹介がくるの。いつも通りさくっと断っておしまいよ」
有里香もやっぱり見た目が良いし、佐々木さんと同じようにいろんな人からアプローチ受けてるんだなぁ。
と、いうわけでさくっと断ったはずの有里香だったが……。
「幸村! 私の彼氏になって!!!」
次の次の日、放課後一日ぶりに現れた有里香が、いきなりそんなことを言い始めた。
これには流石の僕も動揺した。この子は意味をわかっていっているのだろうか。
当たり前だが全員揃っていた部室の空気が一瞬にして静寂になった。
周りの表情を見てみると、小鳥部長は、お皿を割ってしまった後のように口をあんぐり開けていて、美雲さんは口元に手を当てて何やら高速でぶつぶつ呟いている。
そして佐々木さんといえば、無表情でただただこちらをじーっと見つめていた。こわい。
「あ、有里香……あの。どういう」
「あっ、間違えた! 彼氏のフリ! ね。てへへ、ごめんごめん」
テヘペロって感じで訂正をした有里香。
瞬間、部室の空気が再び変わった。佐々木さんと美雲さんからは何やら怒りのようなオーラを感じるが触れるとヤバそうなので放っておこう。
「ど、どういうことさ」
「いやぁ、昨日さ、御曹司と会ってみたんだけどね――」
―――
――
―
はぁーかったるいわー。
なーんで毎回断る為に知らん男と会わなきゃいけないのかしら。お父様の顔を立てる為に仕方なくやってるけどさぁ。
そんなことを思いながら、私は家へと帰宅した。すると既に相手は来訪していたようで、帰ってきた私を玄関で出迎えた。
「おや、お帰り。麗しのマイスウィートハニー」
その場でゲロ吐くかと思った。
帝龍高校の学生服を着た、さらさらストレートヘアーのイケメン。
こいつが、四谷電機の御曹司、四谷翼か。
第一印象は最悪だ。このまま回れ右して部室に戻りたい。
とはいえ、無下にはできないのが世知辛いところね。
「……これはご丁寧にありがとうございます。初めまして、宮本有里香と申しますわ」
「おっと、自己紹介が遅れたね。俺は四谷翼。そう、君を支えることになる光の羽さ」
何言ってんだこいつは。ひとんちの玄関前で。
「あ、あのー四谷様。ワタクシ、あなたとお付き合いするつもりはありませんの」
「何っ!? そんな馬鹿な、パパ!?」
四谷さんは、おそらく父上であろう人物に話しかけて何やら確認している。
あれが四谷電機の現社長かー、顔からは敏腕さはわからないものねー。
「失礼、早とちりしてしまったよ。まぁ奥の部屋でゆっくり話そうじゃないか」
なんであんたが私の家の案内をするのよ。
お父様はお父様で「いやぁ、今どき珍しい積極的な息子さんですなぁ」とか言ってるし、使えないわー!
どうやらこの御曹司、今までのボンボンとはレベルが違うみたいね。
しゃーない、気合い入れていくわ!
ほっぺたをパチンと叩いて私は奥の部屋へと向かった。
食事をしながら、二人の自己紹介なんかをしていったけど、御曹司の話といえば、自分の父の会社がいかに凄いかを話しているだけだった。
あー、これなら華凛のうんちく聴いてた方がマシよ。
「それで、どうだい! 今までの話を聞いて有里香は俺を好きになったかい?」
「え? え、えーと、すみません。あまり……」
「がーーん!! ふふふ、面白い! けど俺は諦めないよ! 最初に写真で君を見た時、一目でビビッと来たんだ! この子に俺の子を産んで貰いたいってね!」
「キショッ」
「え?」
「あっ、キション! きしょん! いやー、くしゃみが凄いですわねぇ。花粉かしら」
あ、危ない危ない。
思わず反射的にキショいと言ってしまった。あー駄目だ、本当に気持ち悪い。
ぶん殴ったらさっさと帰ってくれないかな。
「そうかい? 風邪には気をつけるんだよ。俺の大事な子どもを産むんだから」
「キッショ!! キッション! きしょん。か、花粉がすごいですわー。はは、四谷様、気が早いのではなくて?」
「そんなこともないさ、だって俺たちは許嫁だよ?」
「えっ?」
イイナズケ? 許嫁? 結婚するって決まってる人のこと? 誰が? 私が!?
「お父様!? どういうことですか!?」
私がそう聞くと、お父様は気まずそうに一枚の紙切れを出してきた。
「あ、あはは……実は有里香が5歳の頃、彼とこんな約束をしててね……」
その紙切れには、私が四谷翼と結婚するのを認めるという内容が書かれていて、両方の父親の捺印もされていた。
き、聞いてないわよこんなの!
「というわけさ、わかったかい? 俺たちは結ばれる運命にあるんだ。まぁ大丈夫、今はまだ好き同士でなくてもゆっくり時間をかければ……」
「納得いかないわ!!!」
私はテーブルを叩きつけながら立ち上がった。テーブル上のナイフとフォークがカチャカチャと音を立てる。
「な、何故だ有里香……」
お父様がびっくりしていた。
何故って……フツー嫌に決まってるじゃない、こんないきなり。それに当たり前のようにキモい言動してくるし……。
そう思ってもそんな事を相手に言うわけもいかない。
うーん、どうしたもんかな。
「はっ、ま、まさか有里香、既にお前には良い人がいるのか!?」
お父様が何かを察したようにこちらを見てそう言った。
いや、そんな人いるわけないでしょ……ん? 待てよ?
そこで私はピーんと来た! これだ!
「そうです! 私にはもうお付き合いしてる彼がいるの! だから四谷様とのお付き合いはできないわ!!」
私がそう言うと御曹司はショックを受けているようだった。ケケケ……さぁ引き下がれ。
「それこそ納得できない! 俺たちは契約を交わしているんだ。その男が本当に君にふさわしいかを確認する義務が俺にはある! そうでしょう? 有里香パパ!」
有里香パパて。
「う、うむ。そ、そうだな。かなりダメージが深いが、私だって有里香の彼氏がどれほどのものなのか見なければならない!」
お父様が無駄にダメージを負ってしまった……。
「で、あればこういうのはどうですかな? 私の息子翼と、有里香嬢の彼氏、二人で何かの対決をしてもらい、勝った方が相応しいというのは」
「えっ?」
なんか話が急に変わってない?
「いいね、それ! 流石パパ! そうしよう。じゃあとりあえず来週の土曜日に彼氏と顔合わせといこう!」
「うむ、ではそれで」
「面白くなってきましたな」
―――
――
―
「と、いうわけで、私は土曜日に彼氏を連れて顔合わせしなきゃならなくなったのよ」
「へぇー、大変だなぁ。その彼氏とやら」
「何言ってんのよ! だからあんたが私のニセ彼氏役になるんだってば!」
あっ、そ、そうか。そういえばそんな話だったっけ。長くて忘れてた。
「話は理解したわ。けれど有里香、別にそれならこんな冴えなくて友達いなくて地味な男よりも、もっとイケイケな人を選んだら? 女子から人気の小林くんとか良いんじゃない?」
「僕を助けてくれてるように思いたいんだけど、前半部分で矢が僕に直撃しまくってるよ佐々木さん」
それにしても小林くんか。そういえば、クラスで最後に佐々木さんに告白したのが小林くんだったな……。
「あのねー、私が知らない男と彼氏のフリなんかできるわけないでしょ!? なんで私に友達がいないと思ってんのよ!」
言ってて悲しくならないのか、有里香よ。
「それにしても本当にいいのかしら。もし九条くんが負けたらあなたはその御曹司と付き合うことになるのでしょう? そんな大事な場面を九条くんに任せていいの?」
なんかそう言われるとめちゃくちゃ責任重大なんじゃないか、これ。
有里香は俺をチラリと見ると、鼻を鳴らした。
「ま、別にその時はその時よ。どうとでもしてやるわ。それに……幸村ならたぶんなんとかしてくれるでしょ!」
そういって満面の笑みを浮かべる有里香。
な、なんという純粋な笑顔。
これじゃ断れないよ。
そう思っていると、何やら佐々木さんが思案顔で有里香をジーッと見つめていた。
「まさか……いや、まだ違う……? でもこのままいくと……」
何やら小声でボソボソ言っているが、どうしたんだろう。
「というわけで幸村、頼むわよ! 無事勝てたら私のお小遣いの範囲でなら願いを聞いてあげるわ!」
「はぁ……まぁ断ると言ったところで君は僕にやらせるんだろうし、わかったよ、付き合うよ。それで? 土曜日までに何か準備はいるの?」
「それなんだけど、必要最低限、私たちが怪しくないって思わせなきゃいけないと思うの。だから、今日から特訓するわ!」
「特訓?」
「ええ、恋人っぽい特訓よ!」
どんな特訓だよ……ってつっこみたいけど、有里香がやる気に満ち溢れているので何も言わずに放っておいた。
というわけで僕と有里香のニセ恋人生活がスタートする。
【評価のおねがい】
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新がんばって!」
と思ってくださったら、
広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです!