29.超絶ぼっちな僕、超絶美少女の秘密【挿絵有】
事件が起きた週の金曜日、すっかり僕はいつも通りに学校に通っていた。
麗奈さんは学校に来ていない。ちなみに彼女は特に警察に捕まったりもしていない。僕がいいと言ったからだ。佐々木さんたちは不満顔だったが、僕は特に公開していない。
あの事件のことは表立っていないため、もちろんクラスメイトも知らない。そもそも彼らは僕に興味がないけれど。
それと、人気アーティストのreiが活動を休止した。理由は明かされていないが、一時的なものですぐに復帰するとテレビは言っている。
僕も彼女には復帰して欲しい。彼女は自分の事を僕と同じ孤独だと言ったが、それは違うと思っている。彼女には確かに、彼女を待っている人々がいるからだ。
「九条君、何を間抜けな顔でぼーっとしてるの。お昼よ」
佐々木さんが、呆れた顔で僕をみていた。
おっと、考えていたらいつのまにか昼休みになっていたらしい。
実は今日、いつもとは違う場所でお昼ご飯を食べることにしている。僕が言い出したことだ。
「そうだね。行こうか」
そう言って僕と佐々木さんは教室を出た。廊下を歩いて向かった先は、屋上だ。
そう、以前美雲さんに言われたように、屋上は金曜日になったら開いている。
僕は屋上の扉を開けて、陽の光を浴びた。屋上にはすでに、有里香も小鳥部長も美雲さんもいる。
「遅いのじゃ、幸村」
部長はそんなことを言っているが、地面にブルーシートを敷いて、のんびりとお茶をのんでいる。
「ごめんなさい。九条君が間抜け面してぼーっとしていたから遅れてしまったわ」
「それはいつものことじゃない」
佐々木さんと有里香が揃って僕をいじめてくるが、慣れてしまって、正直もうつっこむ気にもならない。
「まあそんなことより九条君も佐々木さんも早く座りなよ。さっきから注目を集めてしまっているよ」
美雲さんは周りを見ながらそう言った。当たり前といえば当たり前だが、屋上には僕たち以外にもいる。それもだいたいカップルたちだ。そうなってくると、僕たちは無駄に目立ってしまう。とりわけ僕以外の四人は容姿端麗だ。目を引くのも仕方ないだろう。
「視線なんて空気だと思えばなんてことはないわ」
「ま、みんな男どもは皆私のないすばでーに悩殺されておるんじゃろ」
「そんなわけないでしょ。お子様体形が何いってんのよ。ナイスバディって言うのはあんたたちの慎ましい身体なんかじゃなく、私みたいに出るとこ出てる身体のことを言うのよ。男どもは私を見てるに違いないわ」
有里香はそんなことを言ったが、正直否定はできない。さっきからこちらをチラチラとみているカップルの彼氏たちが彼女に耳を引っ張られている。
思ったよりもこの集まりは破壊力があるようだ。
「有里香、その意見には賛同しかねるな。私は確かにそんなに胸が大きくないが、日本には伝統的に慎みの文化がある。控えめであるからこそ美しい。それこそが日本的な美しさだよ」
意外なことにいつもは冷静な美雲さんが話にかかわり始めた。
別に美雲さんは小さいというほどでもないのだから、そんなに気にしなくてもいいと思うのだが。
僕はそんなことを考えながら、お弁当を食べている。
「それは負け犬の遠吠えだわ華凛。大きいほうが良いに決まってる」
「違うぞお前たち。時代はロリじゃ。合法ロリが最も強い」
小鳥部長も加わり始めたぞ。こうなってくると佐々木さんも、加わりそうだな。
「違うわ。間違っているわよ。最も大事なのは――顔よ」
元も子もないことを言いだした。
さんざん僕に説いてきた『芯』とやらはどこにいったんだ。
「圧倒的かつ超常的な魅力。そう、すなわち超絶美少女な私が最強よ」
うわあ。自分で言っちゃったよこの人。
とはいえ、明らかにこの中で一番モテている佐々木さんがそう言ってしまったので、その話はそこで終わりになった。
誰にも突っ込まれなかった佐々木さんは少し恥ずかしそうにしていた。
「そういえば小鳥部長」僕はそう切り出した。
「もうすぐ文芸のコンクールがありますけど、僕たちは参加するんですか」
そう尋ねると、小鳥部長は待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「ふっふっふ。よくぞ聞いた幸村。そう、私たち文芸部結成しての初めての戦いじゃ。もちろん目標がある。すばり、目指せ入賞じゃ!!」
「へえ、大会ってことね! 面白そうじゃない! 私の文芸センスを見せる時が来たようね!」
「くっくっく。小説か……勉強しなきゃね」
「官能小説は……さすがに引っかかるわよね」
佐々木さんは何を書こうとしているんだ。
そんなこんなで食事中はその話で盛り上がり、しまいには円陣なんか組んで、
「入賞目指すのじゃ」
「「「「おー」」」」
そんなことをやっていた。
お昼休みも終わり、そのまま放課後になった僕はいつもなら部室へと向かうのだが、今日は、用事があった。
「ねえ佐々木さん」
「何かしら」
「部活に行く前に少し話がしたいのだけれど」
「珍しいわね。いいわ、何かしら」
「人がいると話しづらいしみんながいなくなってから話すよ」
僕はそう言って席に座って、スマホを取り出した。
佐々木さんも暇つぶしに本を読み始める。ふと彼女の本を読む姿を見る。
どこを切り取っても、まるで絵画のように綺麗だった。
20分ほどすると教室から人がいなくなる。そこで僕は話を切り出した。
「佐々木さんはコンクールにどんな小説を書くのか決めたのかい?」
「いえ、決めてないわ」
「そうか。僕は何かの大会に参加するのは初めてだよ。そういえば、円陣も初めてだった」
「くすくす。そう言えば私もそうだわ」
「文芸部と出逢ってから……いや、君と出逢ってから初めてのことばかりだ」
僕はそう言いながら、佐々木さんと出逢ったときのことを思い出す。
話すようになってから一か月くらいしか経ってないのにずいぶんと昔に感じる。
「そういえば、あなたと初めて話したのも放課後の教室だったわね」
「ああ。もうすでに懐かしくなってる」
「おじいさんのようなことを言うのね」
佐々木さんは開いていた本をゆっくりと閉じた。
「ありがとう」
僕は唐突にそう言った。
「何かしら急に」
「この前の事件のことさ。君がいたから僕は僕でいられる」
「むず痒いわね。別にいいわ」
「あの時僕は、人とかかわることをやめようと思っていた。でも君と話していて、自分が人とかかわることを求めていることに気づいたんだ。だから今僕は僕でいられる」
「お役に立てたなら何よりだわ」
「ありがとう」
僕はもう一度お礼を言った。
「二回もいらないわよ」
「違うさ。二回目の感謝は、僕を文芸部に入れてくれたことだよ。決して消えない恩さ。こっちの理由は、言うまでもないと思うけど」
「くすくす……そうね、聞かないであげるわ」
くすりと笑う彼女の笑顔はまぶしかった。
不意に僕の横の開けた窓から風が吹いた。カーテンがなびき、その風は佐々木さんの黒い髪もゆるやかに運ぶ。
佐々木さんは立ち上がって窓のほうを見た。
「消えない恩ね……それを言うなら私のほうよ」
「え……?」
彼女はどこか切なげな瞳を僕のほうにむける。
そして自分の席のカバンから何かを探して取り出した。そして、その何かを僕に向かって差し出した。
彼女の手のひらに乗っていたもの。それは――僕の中学校の校章だった。
「それは僕の中学の……何故君が」
「心の傷も癒えたころ、私は恩人を探すために事件現場で手掛かりを探したわ」
脈絡もなく、佐々木さんはそう語り始めた。彼女は校章を僕に渡すと、再び窓のほうへと歩いていきグラウンドを見ながら話をする。
「なんの、話?」
「あの日は雨だった。だから何も無いと思ったけれど、見つけたの。この校章を」
雨という単語を聞いた途端、僕の心臓が鼓動するのがわかった。
『あの日』僕は、犯人に殴られて、校章を落としている。
「私は手掛かりをもとにすぐに親に言って恩人を探してもらったわ。そしたらすぐに見つかった。少し離れた学校だけど。私は一言お礼が言いたかった。でも彼はそれを遠慮していた。当時は理由がわからなかったわ。でも今は彼が私を気遣ってくれたからだとわかる。それでも私は彼に会いたかった」
彼女はまだ僕のほうを見ない。
「元々受けようとしていた高校は、私の事情を鑑みて、再試験をしてくれるといったけれど、私は断った。私は彼の中学の担任の先生に話を伺って、彼が花園高校に進学することを聞いたの。だから、親には迷惑をかけたけれどなんとかそこに入れてもらった」
「まさか……佐々木さん。君があの時の……」
僕がそういうと、彼女は窓から僕のほうへと振り返った。
その表情は安らかで、優しげだった。
「ねえ九条君。いつか言ったわよね。あなたと初めて会ったとき、私があなたのことを鼻で笑ったって」
「ああ」
僕の佐々木さんの印象は最悪だった。
「あれはね、笑顔がどうしても抑えきれなかったのよ。あなたに会えたと思ったら、我慢してたんだけどね」
「き、君がそんな可愛らしい理由で笑ってたと知っていたら僕の印象も変わっていただろうね」
「くすくす……どちらにせよ私たちはぼっちよ」
「そうかな。そうかもね。僕は君と交わした秘密の約束をまだ果たせていないからね」
「ええ、そうよ。私の初めての『友達』。どうかしら、少しは進んだと思う?」
「どうかな。友達がいない僕には基準がよくわからないや」
「それもそうね」
「ただ、僕の中にある『芯』とやらは、君といれば折れることはないってことはわかったよ」
「女の子に頼るなんて恥ずかしくないのかしら」
「ふふふ」
「くすくす」
僕たちは静かに笑う。
外を見ると夕焼けがやけに綺麗だった。
「ねえ九条君」
佐々木さんは僕を見つめて、
「私のために――死ねる?」
そう言った。
やれやれ、それには前も答えたと思うんだけど。
「いやだよ。好きな漫画が終わるまでは死ねないんだ」
前と同じ答えを返した。
すると佐々木さんは、宝石のような笑みを浮かべた。
「やっぱりあなた、嘘が下手ね」
そこで僕はやっと気づいた。
そうか、僕は既に一度死ぬ気で彼女を助けてたんだった。
なんだか急に恥ずかしくなってきたな。
そういうわけで、僕は照れ隠しに頭をぽりぽりとかきながら、
「あー……部活行こうか」
「くすくす。そうね」
そう言って僕たちは部室へと向かったのだった。
佐々木さんの手のひらで転がされているよね僕。
やれやれ、友達の道はまだまだ険しいな。
ここで一区切りがついたのでちょっと休みます。
正直続けるかどうかはわかりません。なので完結でもいいような終わり方にしました。
続けるか微妙な理由は自分の力不足で評価があまり増えなかったからです。
恋愛物は初めて書きましたが、向いてないのかもしれませんね…。
湿っぽくなりましたが、ここまでお付き合いいただいた方はありがとうございました!!
よろしければ是非ポイントと感想をお願いします!
【追記】
ミミマルさんから『レビュー』いただきました!ありがとうございます!




