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26.超絶ぼっちな僕、捕まる


 あぁよく寝た。

 そんな気持ちを抱きながら僕は目を覚ました。

 寝ぼけたまま周りを見ると、僕はベッドで寝ていたようだけど、このベッドは僕の部屋のものではない。とはいえ見たことのある部屋でもない。

 というかこの部屋何もない。あるのはカーテンくらいで時計すらもない。


 あれ、僕は何してたんだっけ。ここどこだ?

 記憶の再生を試みる。えーと確か土曜日だよな、今日。それで……そうだ、麗奈さんとデートをして帰りに急に……。

 そう、急に眠くなったんだ。あの時の彼女の不気味な笑顔、あれは……。

 その時、部屋の扉が開いた。


「あれ、起きたんですね」


 麗奈さんだった。

 どういうことなんだ?


「麗奈さん、僕はいったい……ここはどこ?」

「ここは私の家の一つです。幸村君は寝てしまったのでここまで連れてきたんですよ」


 麗奈さんの家? 一人暮らしってことか?


「君が僕をここまで連れてきたの? 一人で?」

「いえ、私一人の力じゃとても運べないですよ。そこはほら、手伝ってもらいました。手伝ってくれる人はいくらでもいますから」


 なんだか不穏な感じだな。その気になればなんでも出来るっていうことを暗に言いたいのだろう。


「ええと、寝ちゃったのにわざわざ連れて来てくれてありがとう。今何時?」


 嫌な予感しかしないけど、ここは平然とした様子で切りぬけよう。あまり騒ぐのは得策じゃない気がする。


「今何時かどうかなんて気にする必要ないですよ。幸村君はもうここにいればいいんですから。『外』の事を気にする必要なんてありません」

「……何を言っている?」

「私、考えたんです。何をすれば汚れてしまった幸村君が綺麗に元どおりになるのかなって。そしたらわかったんです」


 彼女は愉快そうに笑う。


「閉じ込めちゃえば良いんですよ! 今まで『内』に閉じこもっていたのに『外』と関わり持ったから汚れてしまったんです。だから『内』に閉じ込めて私が一生懸命に『洗濯』してあげれば綺麗になるに決まっているんです!」


 異常だ。

 確認するまでもない。彼女は異常だ。

 これは悠長な事を言っていられない。さっさとここを出よう。

 そう思ってベッドから出て立ち上がろうとして右足首の異変に気付く。僕を引っ張るようにして何かが足首を抑えている。冷たい金属のような感触。毛布をどけて見てみると、足首には警察が犯人の手首につけるような錠がつけられていた。


「ちょっとこれはやりすぎじゃ……」


 初めて汗が出た。

 この人、本物だ。


「綺麗になるまでは出しませんよ」

「このままだと家族が心配する。僕の妹はちょっと心配性でね。連絡を入れたいんだけど」

「友達の家に泊まるとでも言うつもりですか? 友達がいないのにそんな事を言っても嘘だとバレますよ」


 ど正論だった。

 まずいな、ここから抜ける方法が見つからない。

 ポケットにスマホがないから取り上げられたのは確かだ。警察に連絡もできない。

 今何時なんだ? 確かデートが終わったのが7時前くらいだったと思うけど。

 とりあえず話を繋げて隙を伺うしかないか。


「麗奈さん。トイレに行きたい時はどうすればいいのさ」

「その時は私の手首と手錠を繋げる代わりに、足の錠は外してあげますよ」


 くそ、考えてやがるな。

 これじゃダッシュで逃げるなんて出来ない。


「さっき君は僕を綺麗にするとか言ってたけど、どうするつもりなんだ。まさかずっとここにいさせるつもりかい?」

「まさか。そんなことしたら私は犯罪者になってしまうじゃないですか」

「いや既に犯罪者だと思うんだけれど」


 拉致監禁してるし。

 でも解放する気はあるのか? いや、信じる要素もないな。


「きっと幸村君が汚れてるのは、佐々木雫のせいだと思うんですよ。彼女のことが頭から無くなればきっと元の幸村君に戻ると思うんです」

「なんでそんなに佐々木さんを敵視するんだ。文芸部には他にも人がいるじゃないか」

「勿論他のメンバーも同じですが、佐々木雫は特別ですね。まぁ強いて言うなら女の勘というやつでしょうか」

「わけがわからないね」

「まぁ、いいです。人は極限まで追い詰められた時には何かにすがるものです。今から私は幸村君を追い詰めます。けれど許してください。それもあなたを思っての事です」

「何をする気だよ」

「今にわかります」

「おいっ……あっ」


 彼女は僕から離れて、あろうことか部屋の電気を消した。僕の手の届く範囲に電気のスイッチはない。

 真っ暗闇が僕を襲う。部屋には何もない。明かりさえも。

 寝ようにも全く眠くない。


 暗闇。それは恐怖そのものだった。時間が経っているのかもわからないこの状況は、苛々を募らせる。

 そしてドアの奥からはピチャン、ピチャンと、水滴が滴る音がする。水道の栓をちゃんと締めきれていないのだろうか。その一定のリズムが暗闇の僕の頭を徐々におかしくしていった。


 時間が無限に感じる。時間が止まっているかのようにすら感じる。

 どれくらい時間が経ったのだろうか。

 お腹が空いてきた。そういえば夜ご飯を食べていない。

 キュルキュルとお腹が鳴った。

 なんで僕がこんな目に……。


 そこから空腹に耐えていると、再びドアが開いた。

 久しぶりの光に、思わず目を閉じる。慣れてきた頃に目を開けると麗奈さんは、僕の顔をジロジロと眺めていた。


「お腹が空きましたか?」


 そう言って、彼女は右手に持っているコンビニのおにぎりを僕に見せた。

 僕は思わず立ち上がろうとして鎖に引っ張れてベッドで倒れる。自分が繋がれている事を忘れていた。

 僕は食べたいという意思を頷く事で表した。これでやっと食べれる。そう思った。


「そうですか、食べたいですか。でもあげませんこれは。幸村君が佐々木雫の事を忘れるまでは」


 だが麗奈さんのその言葉を聞いて僕は絶望した。

 彼女はそれだけ言って、再びドアを閉めた。

 そう、彼女はそれをするためだけに、僕に希望を与えるだけのために、そんな事をやったのだ。

 扉が閉まり、再び闇が僕を訪れる。


「ああああああああ!!」


 僕は叫んだ。

 だが帰ってくるのは水の滴る音だけだった。

 僕の限界は近づいていた。


暗闇は怖いって宇宙飛行士が言ってた。



ちょっと今の話は退屈かもしれませんが、あと数話で終わります。

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