25.超絶ぼっちな僕、翼をもがれた流れ星
とりあえず、僕たちは駅の周りをぶらぶらと歩いた。歩いている間にも麗奈さんは何かと僕に対して質問をしてきたので、答えるのが大変だった。
どうやら麗奈さんは見たい映画があるようなので、僕もそれについて行った。内容はよくある恋愛映画だ。正直そんなに面白くはなかった。
その後何故か麗奈さんが猛烈にカラオケに行きたがるので、カラオケに行くことになった。
個室に入り、座ってドリンクを飲む僕。
「幸村君はさっきの映画どうでした?」
「うーん、そんなに面白くはなかったかな。展開が読めてしまって」
「私も同じです。主題歌はどうでした?」
主題歌。あの映画には何度か挿入される主題歌があった。エンドロールにも流された歌なので、頭に残っている。
確かあれは、最近人気のアーティストreiが歌っていた。
「reiの歌ね。一途に相手を想う歌は映画と合っていて良かったと思う。最近人気だよね、rei」
「ええ、どうやらそうみたいですね」
「麗奈さんは好きなの? rei」
「んーどうでしょう。でも歌えますよ」
そう言って彼女は曲を入れ始めた。入れた曲が流れ始める。それはさっきの映画の主題歌の『翼の生えた流れ星』だ。
彼女がマイクを持つ姿は、やけに様になっていた。
そして、
――ずっと探していたんだ。君の元へ行くために
歌い出した彼女は、様になっているどころではなく、rei『そのもの』だった。
それは言うなれば、
さっき、聴いたぞこれ!?
という思いだった。
さっき映画館で聴いた歌声が今一メートルも離れていない距離から聞こえてくるのだ。
僕は驚きのあまり何が起きているのか全く理解できなかった。
彼女はそのまま歌い続けるが、僕はただ驚きながらその歌を聴くしかなかった。歌はやがてサビへと向かう。
――シューティングスター。私が流れ星だったなら、君は祈ってくれるかな。私に翼があったなら、君に逢いに行けるかな
圧倒されていた。
言葉では表せない迫力。僕はこの時点で確信していた。彼女はrei本人だ。
僕は馬鹿みたいに口を開けながら歌を聴き続け、そして麗奈さんが歌い終えると、自然に手を叩いていた。
「拍手なんてされると照れますね」
「き、君がreiだとは知らなかったよ」
「違いますよ、そんなわけないじゃないですか」
「流石に僕でもさっき聴いたばかりの歌の歌手を間違えはしないよ。君はreiだ、間違いない」
僕が確信を持ってそう言うと、麗奈さんは驚く様子もなく、微笑んだ。
「まぁバレると思って歌いましたからね。とはいえそんなに確信持たれて言われると照れます」
「君があまり学校に来れないのも忙しいからというわけか」
「ええ。最近は特に忙しくて。幸村君がいないなら学校なんて辞めてもいいんですけどね」
彼女はドリンクを飲みながらそんなことを言う。冗談ではなさそうだ。
僕もドリンクを飲んだ。緊張感のせいか、メロンジュースが苦く感じた。
「バレないもんだね」
「地味な格好であんまり学校行ってなければ気づかないものですよ。それにみんなこんなに近くに有名人がいるなんて思わないみたいですから」
確かに、僕も全く気づかなかった。テレビでも見ていたはずだが、歌手の時の彼女は髪の色がピンクだし顔はなんかハートみたいなのがメイクで描かれてるし、派手な格好をしているから結びつかないな。
「あのピンクの髪はカツラ?」
「はい。私専用です」
「なるほどね、わからないもんだ。さて、僕も歌おうかな」
プロの後に歌うことほど恥ずかしいものもないが、僕は好きな歌手の曲を、妹とカラオケに来ている時のように歌った。
「幸村君、お上手です」
嬉しいような恥ずかしいようなお世辞をもらった。
その後時間が過ぎ、そろそろ帰宅するくらいの時間になった。
いつのまにかこんな時間になっていたのか。気づかなかった。
あたりは少し暗くなってきている。
「ではそろそろ帰りましょうか」
「そうだね」
「時間が過ぎるのが早かったです!」
「確かに……僕もそう感じた」
「幸村君。今日は私のわがままに付き合っていただき、ありがとうございました。それで……あの」
麗奈さんは、そこで間を置いた。
「気持ちは変わりましたか? 告白の」
彼女の目が真っ直ぐと僕を捉える。
以前彼女に感じた暗く深い闇を抱えた瞳は、今は感じなかった。
確かに彼女と過ごした1日は楽しかった。それは間違いない。それに麗奈さんは可愛い。それも間違いない。
だけど、やはり僕には引っかかっている点がある。
「麗奈さんは、僕が文芸部にいる事は許せないんだよね」「ええ、勿論。付き合ったらすぐに辞めてもらいます」
「佐々木さんたちと会話するのも駄目なの?」
「はい。特に佐々木雫とは会話させません。彼女があなたをおかしくさせているんです」
やっぱり。
僕は、深く息を吸い込んで、落ち着いて答えた。
「ごめん。やっぱり僕は君と付き合うことは出来ない。僕は人に言われて素直に従うほど出来た人間じゃないんだ。そうなら友達できてるさ」
「その想いは変わりませんか」
「ああ、変わらない」
「そうですか、残念です」
彼女は俯いた。
悪いけどこれが一番妥当な選択だろう。
それに僕は誰かを好きになれるほど、まだ誰かに心を許せていない。
麗奈さんは俯いた顔を、元に戻して僕の方を見た。
「これが」彼女は間を置いて、
「最期のチャンスだったのに」
そう言った。彼女は笑みを浮かべて僕を見ていた。
その瞳は暗く、底の知れない闇のようだった。
僕は恐怖した。その得体の知れない怖さに。
瞬間、僕は猛烈な眠気に襲われた。
なんだ!? 頭が揺れる。眠気に逆らえない。瞼が重い。
麗奈さんはまだ笑みを浮かべている。
「メロンジュース、苦くなかったですか?」
彼女は愉しそうにそう告げる。
カラオケで飲んでいたドリンクを思い出す。
まさか、あれに何か……。
立っていられない。僕は思わずその場に膝をついた。
「おやすみなさい、幸村君」彼女はそう言って、鼻歌交じりに、
「シューティングスター、あなたに翼が生えているのなら、もいでしまえば逃げられないよね」
さっきの歌の2番を歌っていた。
「ふふふ」
彼女のその笑い声を最後に、僕の意識はそこで途絶えた。
柳生麗奈:reiとしてバレたことは一度もない。
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