22.超絶ぼっちな僕、ラブレターを貰う【挿絵有】
朝、登校してから僕はいったい何度確認しているのだろう。
僕は机の中にしまったあるものを、再び見る。やっぱり実在している。『それ』は下駄箱に入っていた。紙が二つ折りにされただけのもの。
僕は中身をその場で見ようとしたが、割と文字が多かったのでゆっくりと見られる場所に移った。誰にも見られない所といえばトイレの個室だ。
僕は個室に入り、紙を広げた。
♦︎
九条君へ
突然のお手紙ごめんなさい。
本当はこんな事を書くつもりはなかった。
ただ、遠くから見つめていられれば良かったのです。
けれど、最近のあなたを見ているとどうしてもこの気持ちを抑えることはできません。
九条君、よければ今日、部活が終わる6時に体育館裏で待っています。
♦︎
ちょっと待て。なんだこれは。
手紙、だよな。文字書いてあるしそれは間違いない。
それでこれ、中身はなんだ?
まさ、まさか……ラブレター? いや待て落ち着け僕。
人生で一度もこんなもの貰ったことないぞ。まさか罠、か?
そうだ、僕を陥れるための罠だという可能性がある。行ってみたら誰もいなくて動画を撮られるとかそういうやつだ。そもそも差出人の名前が書いていないしな……。
一旦落ち着こう。なんにせよこれは誰にも見られないようにしなきゃ。
僕は手紙をポケットにしまって教室へと戻った。その後いつものように授業を受ける。
お昼休みになって佐々木さんと有里香とご飯を食べ始めた。
適当に雑談している中、昨日のテレビ番組の話になった。
「そういえば幸村、昨日reiの『手紙』聴いた?」
「えっ、何? 手紙が何っ!? 何が!?」
な、なんだ? 有里香のやつ僕が手紙をもらった事に気付いているのか?
ジワリと汗が滲むのを感じる。
「な、何よ。どうしたの幸村そんなに騒いで」
「い、いや別に。僕はいつも通りだよ。そ、それでなんだっけ?」
「だから、昨日テレビに出てたreiの歌聴いた? ってきいてんのよ」
「あ、ああreiね。はは、最近注目の現役高校生若手シンガーソングライターreiの最新曲の『手紙』ね。聴いた聴いた。いい曲だよねあれは。うん」
「めちゃくちゃ説明口調じゃない。なーんか、やっぱりおかしいわねあんた」
有里香がじいっと僕の方を見つめてきた。
まずい、挙動不審なのがバレたのか。
佐々木さんの方を見てみると、彼女は黙々とお弁当を食べている。
「べ、別におかしくないよ」
「まぁ隠してたとしてもあんたのことだからどうせしょうもないことでしょ。それよりそのreiのさ――」
なんだか訳のわからない理屈だったが、有難いことに有里香は特に追求してくるつもりはないようだ。
僕たちは適当に雑談をして昼休みを終えた。そして放課後になって部室に向かった。
僕のポケットにはまだ手紙が入っている。大丈夫さ、冷静にしていればバレる道理は無い。
「なんか暇じゃのう。隕石でも降らんかのう」
「くくく、私は落ちても楽しくは無いと思いますよ、隕石」
「隕石なんかよりケーキが食べたいわ! 甘いものが食べたい! ねぇ雫、クマのマーチ一個ちょーだい!」
「嫌よ」
「なんでよ!」
「私のだから」
「じゃ買うわ! いくら!?」
「五千兆円」
「買えるわけないでしょー! あんた馬鹿なの!?」
「じゃあ諦めなさい」
いつも通りのんびりしている部活だ。
くそ、時間が過ぎる度にそわそわする。時間が早くきて欲しいような来てほしくないような。
「あら、どうしたのかしら九条君。やけに落ち着かない様子だけれど」
佐々木さんが、僕の方を見てそう言った。やっぱり彼女は僕の異変を見逃さないか。
「いや、別に」
「そういえば今日はあまり喋らないわね」
「そうかな。いつもこんなものだと思うけど」
「相変わらず嘘が下手ね。さっきから視線が右のポケットにばかり行っているわ。何か隠しているでしょう」
「君の先祖は金田一的な何かなのか?」
もしくは小さくなっても頭脳は同じ的な何かだとしか思えない。何という洞察力。
どうやらもう隠すことは出来ないらしい。こうなったらみんなに言って考えを聞かせてもらうか。手紙をくれた女の子には申し訳ない。
僕は右のポケットから手紙を取り出して、机に広げた。部活メンバーは食いつくようにそれを眺める。
「ゆ、幸村これあんた、まさかラブレター!? 嘘でしょ!?」
「馬鹿ね有里香。九条君にラブレターなんて届くわけないでしょう。これはイタズラよ」
「興味深いね。まさか九条君にこんなイベントが起きるなんて」
「面白いのじゃ! 幸村、もちろんこの場所には行くんじゃよな?」
「もちろん行きますけど……」
僕が答えると、小鳥部長は目を輝かせていた。
「ぬふふふ。面白い事になってきたの! 隕石なんかよりもっと面白いぞ!」
「いやいや、部長。こういうことを茶化すのは良くないですよ。僕だって緊張してるんですから」
「ふむぅ、それもそうじゃな。でもわくわくするじゃろ」
そんな感じであーでもないこーでもないとどうでもいい話をしていたが、佐々木さんがある一言を放った。
「それで九条君。その手紙の主が本当に告白してきたとして、あなたはお付き合いをするのかしら」
彼女の言葉は淡々としていて、どこか恐ろしささえも感じたが、的を射ている。
お付き合い、つまり恋人の関係になるということだ。そんなこと考えたこともない。
「それは、わからない。そもそもこの人が誰かもわからないんだ。まずは会ってみてそこから考えるよ」
「……そう。まぁせいぜい騙されないように気をつけることね」
そうだ、そもそもこの手紙がイタズラの可能性もあるんだ。
「でもこの字の書き方どこかで見たような気がするわ」
有里香がそんなことを言っているが彼女には友達がいないんだから妄想だろう。
「私はやめたほうがいいと思うけどなぁ」
美雲さんはポツリと呟いた。
「なんでさ」
「こんな可愛らしい手紙を書く子と、九条君が果たして合うかどうか。君も困惑するんじゃないかな」
確かに、僕は今までいわゆる普通の女の子というやつとちゃんと話したことがない。
ここにいる人たちはどう見繕っても普通じゃないし……。
「まぁけれどまずは会ってみなきゃ始まらないか。行くといいよ九条君。結果はまた後で聞かせて欲しいな」
というわけで激励? のような言葉も頂きつつ、僕は約束の6時より少し前に部活を出て、体育館裏に向かった。
外はまだ少し明るい。
僕は近くにある木に寄りかかって待つことにした。
心臓が鳴っている。嫌にでかい音だ。
柄にもなくずいぶんと緊張しているらしい。
そして、彼女はやって来た。黒く長い髪を肩のあたりから三つ編みにしている。そして眼鏡をかけていた。
前髪が長いから顔が少し隠れているが、顔は整っているように見える。だけど、眼鏡や髪型で地味に見えてしまっているようだ。
彼女は僕の近くまでやって来て、顔を赤く染めながら口を開いた。
「あ、あの……来てくれてありがとうございます」
「い、いえ。こちらこそ……」
「わ、わわ、私のこと知っていますか?」
「え? い、いや……ごめんなさい」
「そうですか……そうですよね。私は柳生って言います。一応同じクラス、です」
「同じクラス……?」
まずい、全然知らないぞ。そもそも僕は同じクラスの人なんてほとんど知らない。それこそ佐々木さんと委員長、アニオタの三村君に不良チックな御堂君くらいだ。
「知らないですよね、そうですよね。でもいいんです。あまり私学校に行けてないし」
「そ、そうなんだ」
「何よりこれから知ってもらえばいいんだから、逆にプラスですよね」
そう言って微笑んだ彼女の瞳の奥は、何故か僕を恐怖させた。黒い、暗い。そんな瞳をしている。
「そ、それで柳生さん。今日は、あのいったい?」
「そ、そうでした」
彼女はそこで深呼吸をした。
こちらにまで緊張が伝わってくる。
そして、
「九条君、私と――お付き合いしてください」
そう言われた。
心臓が鳴っている。鼓動は今にも僕の胸を突き破りそうだ。
僕も深く息を吸い込んだ。
宮本有里香:恋バナが割と好き
作者のやる気は感想とポイントで上がります
次の話が読みたいと思われたら是非下の評価ボタンをお願いします。




