21.超絶ぼっちな僕、小鳥部長の小説を読む
今日は珍しく、部活に僕たち5人以外の訪問者が現れた。伊達先生だ。
「よう小鳥。部活続けられるんだって? こんにゃろー、私の手間を増やしやがって」
先生は、棒のついた飴を舐めながら小鳥部長に詰め寄った。
小鳥部長は明らかに動揺している。
「な、何の用じゃ美優」
小鳥部長がそう言うと、伊達先生は軽いゲンコツを放った。
「伊達先生と呼べ」
「痛いのじゃ!」
「今日はちょっと話があってきたんだ。実は部活をするにあたって活動記録を残さないといけなくてな。『回覧ノート』を毎日つけてもらうことにした」
そう言って伊達先生は一冊のノートを取り出した。
「回覧ノート? なんじゃそれ」
「要は日記だ。今日何があったか、とかエッセイを書いたりとか、なんでもいい。ただでさえ文芸部は大会とかもないから活動してるフリくらいしなきゃいけないんだ」
伊達先生はそう言いながら面倒臭そうにため息を吐く。
教師がフリとか言っていいのか。
「ふむ。わかった。まぁ面白そうだしやってやるのじゃ。今日の美優の目的はそれだけじゃよな? 他にはないよな?」
「なんだ、私にいられちゃ困るのか? んー?」
「そ、そんなことはないのじゃ」
「まぁいい。今日の用事はそれだけだ。せいぜい頑張んな」
背中越しに手を振りながら伊達先生は帰っていった。珍しい、あの人が何もせずに帰るなんて。
僕たちは置かれた回覧ノートについて話し合うことになった。
「日記なんて面白そうじゃない! ね、ね、どうやって書く!?」
有里香は目を輝かせている。
「ふう、単純ねあなたは。私は日記だと限界がくると思うわ。そもそも活動らしい活動なんてしてないのだから、馬鹿正直に日記に書いてしまったらアダになってしまうもの」
「うん、私も佐々木さんの意見に賛成だ。文芸部なんだし、小説を書くのが妥当じゃないだろうか」
佐々木さんと美雲さんのインテリ組がそう言ってしまったのでなんとなくそれが正しい気がしてきた。
「な、何よぅ、別にそんなに否定しなくてもいいじゃない! 幸村、あんたは私の味方よね?」
「有里香。都合のいい時だけ僕を頼るのは良くないよ」
「むきーっ! 小鳥は!?」
「私は小説が書きたいのう」
小鳥部長の小説は全部部長バンザイ小説になりそうなんだけれど……。
「ま、そういうことよ。諦めなさい有里香。今日から一日ごとに一人、回覧ノートに小説やエッセイを書いていきましょう。初日はやっぱり部長かしら」
「うおお、任せろなのじゃ!」
小鳥部長がやる気を出している。
早速彼女はノートに鉛筆で何かを書いていく。少しして書き終わったと言うので見てみると、次のように書いてあった。
『文芸部の部長が凄すぎて困る件』
タイトルからして既に察せる。
今までのやつと全部同じジャンルだなこれ。あんまり読みたくはないけれど、部長がキラキラした目で見てくるので読むことにした。
以下本文。
♦︎
私の名前は小鳥。文芸部の部長じゃ。文芸部には私以外の部員が四人おる。私はそんな彼らのリーダーなのじゃ。
今日はそんな文芸部の日常をお見せしよう。
「あぁ! 困った、困ったわ」
おっと我が部員が困っておるようじゃ。この部員の名前は雫。一年生じゃがどうやら大層人気者らしい。じゃがそんな人気者も私にかかれば、チョチョイのチョイじゃ。
「どうしたのじゃ、雫よ」
「ああ! 我が部長、小鳥部長! 聞いてください、お菓子の袋が開けられないんです」
「何ぃ? どれどれ見せてみろ」
雫が見せてきたのは、クマのマーチというお菓子だった。どうやらその袋が開けられないらしい。こんなものも開けられないとは。いつのまに我が文芸部はレベルが下がってしまったのじゃ。
私はクマのマーチの袋をいとも容易く破いてみせた。
「ほれ」
「すっ、凄い! 凄いです!」
雫は驚愕の表情を見せていた。私は雫の頭を撫でてやる。すると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
やれやれ、また私の評価が上がってしまったようじゃな。雫にも困ったものじゃ。さて、次は誰から褒められることやら。
続く
♦︎
「いや、続かなくていいです」
僕は読み終えてそう言った。
「ふふん、どうじゃ幸村。私の文才に恐れをなしたか?」
「恐ろしいですよ。前に佐々木さんに音読されてた小説は恥ずかしそうだったのに、なんでこれは堂々としてられるんですか」
「な、何を言っとるんじゃ。あの時の私は未熟じゃったろうが」
「いや何一つ変わってない気が……」
小鳥部長にはどうやら伝わらないらしい。
「ふふ、まぁいいじゃないか。ここからどんどん小説が上達していけば文芸部としても評価されやすいだろう」
美雲さんはなんでもポジティブに捉えてくれるな。
「それより小鳥、この中に出てくる雫って私のことかしら? 私のことよね?」
佐々木さんが大迫力で小鳥部長に詰め寄っている。
「こ、この物語はフィクションであり登場する人物団体名称は架空であって実在のものとは関係ありませんなのじゃ!!」
「『凄い凄いですよ小鳥部長』。よくそんな長いセリフを噛まずに言えたわね、偉いわ。さて、お話しましょうか」
「い、嫌じゃああー!!」
小鳥部長は喚きながら部室から出て行ってしまった。わかりきった結末だったな……。
というわけで文芸部らしく文を書くことになった僕たちだが、たぶんきっと上達はしない気がする。
やれやれ、僕も小説を書く練習をしておくか。
藤原小鳥:優秀な妹にコンプレックスがある
前の話が少しシリアスだったので日常を。
作者のやる気はポイントと感想で出来ています。
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