19.超絶ぼっちな僕、佐々木さんの好みのタイプを知る
ある日の放課後。
いつものように部活に行くと、部室には誰もいなかった。どうやら他のみんなは遅れてくるか用事があるらしい。
「なら好き勝手やるわよ」
そう言って佐々木さんは嬉しそうに笑みを浮かべた。悪いことを考えてそうだな。
「何をするつもりさ」
「馬鹿ね、九条君。あなた私たちがなんで部活に入ったのか忘れたのかしら」
「いやたぶん一度もそんな目的は言われてないと思うんだけれど」
「じゃあ今言うわ」
じゃあってなんだよ、じゃあって。
「私には友達がいないわ」
「そんな事は百も承知だよ」
「うるさいわね、あなたもぼっちでしょ。私が部活に求めているのは、部活で育まれる友情よ」
「今までの部活中の言動からはとても予想できない夢だね」
友情が育まれるような行動が何か一つでもあったろうか、いやない。
「部活の中で生まれる連帯感。それが友情を育む。そう小説には書かれていたわ」
「官能小説に部活シーンなんてあるの?」
「私がいつも官能小説ばかり読んでいると思わないでくれるかしら」
違うのか。
「でもこの部活、そもそも文芸部だし連帯感は難しいのでは」
「千里の道も一歩から、よ。まずは九条君、あなたと私の連帯感を高めるのよ」
「二人なのに連帯感と言うのは違和感があるけれど……面白い、やってみよう。それで何をするのさ」
「テニスでダブルスを組んで――」
「文芸部要素は!?」
友達がいない僕たちでは、連帯感を高める遊びなど思いつくはずもなく、その話は終わった。
「そういえば佐々木さん。この前戦った虹ぺろの三村君のことだけど」
「誰だったかしら。モノマネして思い出させてくれる?」
「なんで僕が……」
「思い出せないと話が進まないわ」
「『拙者、三度の飯より美少女の脇が好きでござる!!』」
――ピロリーン
ん?
僕がモノマネをし終わると同時にスマホの音が鳴った。佐々木さんの方を見ると彼女はスマホをいじっていた。
「くすくす。良い着信音が録れたわ」
「げ、外道め……」
「九条君は脇が好きなのね。とんだ変態さんだこと」
「ま、まさか……それは三村君の真似をしただけであって……僕は脇なんて」
「あらそうなの、残念だわ。好きなら脇くらい見せてあげようと思ったのに」
そう言って佐々木さんは妖艶な笑みを浮かべた。そして彼女はわざとらしく右腕をあげた。当たり前だが黒いブレザーを着ているので、脇の部分は何も見えないわけだが。
思わず僕は唾を飲み込んだ。
「き、興味ないね……」
「ふぅん。ならいいんだけれど……意気地なしね」
「う、うるさい。それで三村君の事は思い出したのかな?」
「あぁ、そうね。この『拙者、三度の飯より美少女の脇が好きでござる!!』モノマネのおかげで非常に思い出せたわ」
く……わざわざ再生させて。自分の声を聞くのってなんでこうも恥ずかしいんだろうか。
「なら話を戻すよ。君は前に、クラスの男子全員が告白してきたと言っていたよね。つまりあのアニオタの三村君も告白したということだ。なんて告白したのか気になってね」
「ああ、彼なら簡単よ。私を、なんだったかしら……何かのアニメのキャラにそっくりだとかなんとか言ってきたの。だから私は訊いたのよ。『そっくりなら別にそのキャラでいいんじゃないかしら。私はあなたのおもちゃじゃないわ』って」
相変わらずぶった切るね。
「そしたら彼は、『リオたんはそんな事言わないでござる』とか言って泣きながら去ってしまったわ」
「また一人の男が心を折られてしまったのか……」
「日替わりのように告白される私の身にもなって欲しいところだわ」
「佐々木さんには好みのタイプとかはないのかい?」
「あら、そんな事を聞いてどうするつもりなのかしら」
「純粋な興味さ」
「そうね、あまり考えた事はないけれど……強いて言うなら『芯』かしら」
そう言って佐々木さんは自身の手のひらを心臓付近に当てた。
「芯?」
「決して折れないココロの芯。人によって曲がらず、環境によって曲がらず、常に真っ直ぐでいられる芯を持った人。そんな人がいたら良いとは思うでしょうね」
「君ならではの答えと言ったところだ」
「満足がいく回答だったかしら? 九条君にはそういう好みはあるの?」
「そうだなぁ、僕は――」
「待たせたのう。掃除が長引いてしまったのじゃ」
ちょうど小鳥部長が入ってきた。
話はここまでにしよう。
「なんじゃ有里香も華凛もおらんのか。仕方ない、部活っぽい事をしようと思ったのにの」
「何よ、部活っぽい事って」
「人生ゲームでもやろうかと」
もしかして、この部活が文芸部である事を覚えているのは僕だけなのではないだろうか。
九条幸村。特徴、ちょっと変態気味。
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