18.超絶ぼっちな僕、佐々木さんのお姉さんと話す
なんだかんだで部活をかけた勝負に勝った僕たちは無事に文芸部として部活を開始することができた。いつの間にか5月も終わろうとしている。
厄介な出来事が起きたのはそんな五月末の休日のことだった。
僕は暇を潰すために街中に出かけていた。歩いていると、見知った顔が歩いているのに気づく。
佐々木さんと、その隣に歩いているのは誰だろう。綺麗な女の人だ。二十代だろうか。
このままスルーすることも出来るけれど、暇だし話しかけてみる事にしよう。
「やぁ佐々木さん、こんにちは」
僕がそう挨拶すると、佐々木さんはとても嫌がっていそうに顔をしかめた。
「こら雫、挨拶でしょう」
隣にいた女の人が佐々木さんを諭すようにそう言った。
雫って佐々木さんの下の名前だよな。どうやら親しい間柄らしい。
「……こんにちは九条君。こんなところで会うなんて偶然ね。休日にあなたの呑気な顔を見……こんにちは九条君」
今なんで二回言ったんだ。途中まではいつものように僕に対しての罵声のようなものが聞こえていた気がしたんだけれど。
もしかして隣にいるこの女の人の影響だろうか。そう思ってその人を見ると、彼女はニコリと笑った。綺麗な人だ。おっとりとした様子だがどこか気品がある。
「はじめまして。雫の姉の向日葵です」
向日葵さんというのか。
というより今姉って言ったよね? 佐々木さんってお姉さんいたのか。
とりあえず僕も挨拶しておこう。
「はじめまして。佐々木さんの隣の席の九条と言います」
「九条君、雫の隣の席なのね。お友達なのかしら」
「いえ、違いますね」
一応そこははっきり言っておいた。
友達になる事が佐々木さんの最終目標なのだ。こういうところではっきりと友達じゃない事を言っておかないと夢が安っぽくなってしまうからね。
これはきっとファインプレーだろう。そう思って佐々木さんにドヤ顔を見せたが、彼女には僕に聞こえるかどうか程度の小声で「うざ」と言われた。酷いな。
「そ、そんなにはっきり言うほど何かあったの? もしかして雫が九条君に嫌がらせしたとか?」
「はい! あ、い、いえ……別に嫌がらせなんて受けてませんよ?」
思わず反射的に全力で肯定してしまった。佐々木さんがものすごい殺気で僕のことを睨んできたので咄嗟に言い直したけど。
「そう、ならいいんだけど。雫って油断するとすぐに口が悪くなってしまうから」
油断とか関係なしに妹さん口悪いですよ。
「でもいい子なのよ? 照れ隠しに口が悪くなっちゃうだけなのよ。きっとお母さんに似たのね。あなたがもし攻撃されているならそれはきっとあなたの事が気に入っているのよ」
だとしてもツンデレ比10対0は流石にきついんですが。
「ね、姉さん! 何を言ってるのよ」
珍しく佐々木さんが恥ずかしがっている。
ふむ、このお姉さんいつも僕の隣にいてくれないだろうか。
「まぁいいじゃない。あなたが男の子と普通に会話してるなんて初めてのことだわ。いつもはうっかり殺してしまいそうな目をしているもの」
向日葵さんは微笑みながらそう言った。普通に会話してるってそんなに難しいものだっけ……。
「姉さん、そろそろ帰りましょう」
「あら、まだ一時間くらいらあるわ。そうだ九条君、ファミレスにでも行きましょう。もっとお話したいわ」
向日葵さんからのお誘いだが、隣にいる佐々木さんから「断れ」という無言の圧力を感じる。
「せ、せっかくですけど僕はちょっと……」
「いいから来なさいな。歳上の誘いは断るものではなくてよ?」
向日葵さんの笑顔が恐ろしく見えてきた。やっぱり佐々木家の血筋だ。
結局僕は断れるはずもなく、ファミレスに向かった。店の中に入って、対面の席に向日葵さんと佐々木さんが座る。
料理は適当に注文して、待っている間にも向日葵さんが僕に質問してくる。
そうこう話しているうちに、料理が来たので僕たちは食べ始めた。向日葵さんは質問を続けてくる。
「九条君は雫とどうやって出会ったのかしら?」
「クラスが一緒で席が隣だったので自然と。そもそも佐々木さんは入学早々人気だったので僕は知っていましたよ。たぶん佐々木さんは僕の事知らなかったと思いますが」
「へぇ、雫が人気者なんて初めて聞いたわ。この子学校の事なんて話さないから。何故人気だったの?」
「入学式の時から超絶美少女がいるって噂になっていたみたいです。最初の頃は佐々木さんに男子が蟻のように群がってました。他クラスから来た一目惚れ勢も大量にいたので」
「ふぅん、超絶美少女、ねぇ……」
向日葵さんは小馬鹿にしたような目線を佐々木さんに向けた。あまりピンときていないようだ。まぁ向日葵さんも佐々木さんに引けを取らないほど綺麗だから仕方ないのかもしれないが。
「私は何も言っていないわ姉さん。周りが勝手に持て囃していただけよ」
「わかってるわよ。じゃあ九条君は雫の第一印象はどうだったの? やっぱり超絶美少女ってやつ?」
先ほどまで嫌そうに聞いていた佐々木さんだったが、この質問は割と気になっているらしい。そわそわと手を動かしている。このお姉さんの前ではいつものポーカーフェイスは貫けないようだ。佐々木さんも自分の評価とか気になるのかな。
「第一印象……そうですねぇ」
僕はそう言いながら、入学早々のことを思い出す。
―――
――
―
クラスに入って自分の席が窓際だと知った時にはラッキーと思ったものだった。だがクラスの男子たちは、僕のラッキーなんかよりも遥かにラッキーだと感じているらしい。
聞き耳を立てていると、どうやらこのクラスには入学式から話題になっていた超絶美少女がいるらしい。そんなクラスになれた事がラッキーなようだ。
「あっ、佐々木さん」
男子生徒の誰かがそういうと、一斉にみんなの目線が今教室に入ってきた女の子へと集まった。
そういえば佐々木さんという人が人気だと噂で聞いたな。
光沢を放っている美しい黒髪。完全な比率で出来ているとしか思えない整った顔立ち。間違いない、彼女が噂の超絶美少女だろう。
本人は、周りの視線を気にする事なく歩いて僕の隣の席に座った。席が隣なのか。
彼女は座って、僕の方を一瞥した。佐々木さんを観察していた僕は目が合った。
そして、
「ふっ」
鼻で笑った。一瞬だったが間違いない。彼女は僕を見て笑ったのだ。
なんだ? 何がおかしいというんだ。僕がぼっちで誰とも馴染めていないことが既にバレたのか? いいやそんなはずはない、周りだってまだ一人のやつくらいいるはずだ。
何にしても嫌味な人だ。絶対にこんな人とは友達になれないな。まぁ元々友達いないけど。
―――
――
―
最悪だったね、第一印象。
そうだった。僕は佐々木さんに開口一番に笑われたんだった。
「そうですね、佐々木さんの第一印象は……あんまり良くなかったですかね。顔を見て笑われたので」
「えぇー? ちょっと雫、何て失礼なことをしてるの! いくら九条君の顔が面白いからって笑っちゃ駄目でしょう!」
向日葵さん、フォローになってないです。
「九条君の顔が間抜けで面白いのはいつもの事だけど、それとその時の笑いは関係ないわ」
えっ、じゃあ何だったんだ?
「そんなことより姉さん。もうそろそろ時間よ」
「あら本当。じゃあ九条君、また話しましょう」
「はい、是非」
そうして佐々木さん姉妹はファミレスから出て帰っていった。ご飯は奢ってもらった。
去り際に佐々木さんが、
「何であの時私が笑ったのか当てられたら、ご褒美をあげるわ」
と言っていたが、まぁきっと僕は当てられないんだろうな。だってさっぱり思い当たる節がないもの。
それに佐々木さんのご褒美なんてたぶんご褒美じゃない。
でもそう言っていた時の佐々木さんの顔は、何か僕に期待するような目をしていた。そんな気がする。
初めて会った人が見た目以外に笑うことって何だろう……?
もしかして初めてあったわけじゃない、とか?
……そんなわけないか。
佐々木向日葵(21)趣味は温泉巡り。
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