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17.超絶ぼっちな僕、ギャルゲーで勝負する③


 全員に批判される僕。わけわかんないよ、僕が一体何をしたって言うんだ!

 結局そのまま話は進んでいき、着実にトシヤはヒカリとの友情を深めていった。驚いた事にこのルートはいつまで経ってもエンディングに進まない。終わるなら早くバッドエンドに行って欲しいんだけど。


「来た、来たでござる! コトノハちゃんが遂にデレたでござるよー!! クライマックスでござる!!」


 向こう側で大きな歓声が上がった。なんとあっちの画面ではトシヤとヒロインの一人らしきコトノハがキスしていた。

 待て、このタイミングでそれと言う事は……


「グッドエンディング確定キタコレでござる!!」


 三村君の言う通り、あちらはもうエンディングの気配がしている。こちらといえば、もはやシオリの選択肢すらなくなり、フミヤに関する選択肢しかなくなってきていた。しかも一度の選択肢が無駄に5個とかある。

 そして遂に、その時が来てしまった……。


「いつまでも一緒だ、コトノハ!」

「嬉しい、トシヤ君! 私が殺すまで一緒だよ!」


 とんでもないセリフを吐くヒロインだが、そう言って向こうの画面はグッドエンドの文字とともにエンドロールが流れ始めた。


「ひひひひひ!! 拙者たちの勝ちでござるよ! 九条氏! これが虹ぺろの力でござるよ!!」


 観客席からも高笑いが聞こえてくる。

 悔しいが、その通りだ。もう僕たちの負けは、決まった。


「……仕方ないわ」

「許せんのじゃ! こんなの認めなたくないのじゃ!!」

「嫌よ! 私まだ何もしてないもの!」

「これもまた運命ってやつなのかな……」


 佐々木さんたちも悔しそうに顔を歪ませていた。

 虹ぺろたちの勝ち誇った笑い声を聞きながら、僕は無様に残ったゲームを進めていく。せめてこいつらの物語だけでも終わらせてやろう。

 春から始まった季節は移り変わり、夏になっていた。ここに至るまでに一度に5個はある選択肢を十数回も選んだ。

話はいつものようにヒカリと一緒に帰るシーンだ。


「ねぇトシヤ。時々思うんだけど僕らはなんで一緒にいるんだろう。君は他に一緒にいるべき人がいるんじゃないか?」

「あ? 何言ってんだお前」

「君は気づいてないのか? シオリの気持ちに」


 なんだ?

 シオリ? 最近全く出てこなかったけど。


「シオリか。確かに最近あいつに何かと誘われる事は多くなったけど……今はあまり深く考えたくねえ」

「そうか。でもいつかは考えないといけない事だよ。気づいた気持ちを隠し続けても良いことなんてないさ」


 ヒカリは寂しそうな顔をしながらもそう言った。

 なんだか意味深な雰囲気の中、日々は過ぎて行き、夏休みに入る最期の学校の日になった。


 学校が終わって二年生最後の授業が終わった後、トシヤはシオリに呼び出された。呼び出されたトシヤは、シオリに告白された。

 クラスが変わってしまうかもしれないから、今想いを伝えたい。そうシオリは言った。そして恐らく最後の選択肢が現れる。


『俺もお前が好きだ』

『ごめん、俺には忘れられない人がいる』


 僕は何も言わずに下を選択。シオリは泣いていたが、どこかスッキリしていそうだった。

 トシヤは教室へ戻り、帰る支度をする。いつも通りヒカリと帰るトシヤ。帰宅の途中の公園で、ふとトシヤは立ち止まった。


「どうしたのさ、トシヤ」


 そう尋ねるヒカリ。

 トシヤは午後もだいぶ回っているのに真っ青な空を見上げた。


「あの日も確か、こんなに眩しい夏の日だったよな。ヒカリ、いや『コウ』」


 トシヤはそう言った。

 ヒカリは驚愕の表情をしていた。何もいうことなどできないようだ。

 この時点であれだけ騒いでいた虹ぺろやスパクソの部員たちはこのゲームに夢中になって静かになっていた。


「い、いったい……いつから」

「なんとなく、本当になんとなくだけどそうじゃないかと思っていた。ひかり、それをコウって呼んでたわけか。小学生の時から頭良かったんだな、お前は。なんで言ってくれなかったんだ?」

「言えるわけがないじゃないか……」

「それはお前が男の『フリ』をしているのに関係があるのか?」

「そうだよ。僕の家の問題さ。僕は男の子として生きなきゃいけないんだ。そうじゃなきゃ『あの時』だって僕は……!」


 ヒカリの家についてはゲーム内でほとんど描かれていない。断片として、お金持ちであることがわかる程度だ。

 それにしても一気にいろいろな情報が出て来すぎじゃないのか。ヒカリは実は小さい頃の友達のコウで、更にヒカリは女だった? キャパオーバーだ。


「その事はもういいんだよヒカリ。俺はお前にそんな話をしにきたんじゃないんだ」

「え……?」

「今日、放課後にシオリに告白されてさ。返事をしたんだ」

「そう、なんだ」

「俺には忘れられないやつがいるからって断ったんだ」

「忘れられないって……」

「お前の事だよ、コウ。俺はお前が好きだ」


 固まるヒカリ。

 ちなみに僕たちも急激な展開に固まっている。


「そんな嘘……こんなこと」

「ちょっと前まで男として接してたお前にこんな事言うのも変だけどな、はは。でも本気だぜ」

「……トシヤ」

「聞かせてくれ、お前の想い」


 トシヤの問いにヒカリは答える。


「好き……好きだよ! トシヤ!」


 そう言ってトシヤに抱きつくヒカリ。

 そしてそこで場面は変わって、過去の回想に入った。それはトシヤとヒカリの幼き頃の思い出だった。

 何故二人は仲良くなったのか、何故ヒカリは約束をやぶる事になってしまったのか。ヒカリを縛る家族とはなんなのか。それら全てが明かされた。

 そして回想の最後に、子供の頃のトシヤがヒカリに向かって公園で話している場面になった。


「なぁ、コウ。お前ってさ、太陽みたいな奴だよな!」

「何言ってるの? トシヤ。僕は太陽じゃないよ」

「ちげーよー。お前といるとさ、俺も心がポカポカするからだよ! へへ、太陽みたいだろ!?」

「うーん、そうかなぁ、僕も……」

「え? 何? 聞こえないよコウ」

「う、ううん何でもない!」


 コウは何か言いたげだったが、そのまま黙ってしまった。トシヤは気にせず話し続ける。


「なぁコウ、来週から遠くに行っちゃうんだろ? でもまた来年夏になったら会えるよな!?」

「うん、会えるよ! トシヤに会うの楽しみにしてるね!」

「じゃあまた来年な! 今日みたいに太陽が暑くてもさ、俺はここで待ってるから! ねっちゅーしょーにはならないように気をつけるけど!」

「うん、僕も君に会いにいくよ!!」


 そこで回想は終わる。結局その次の年に会う事はできなかった二人だが、数年の時を経て再び同じ公園で彼らは会ったんだ。

 エンドロールとエンディングテーマが流れ始めた。それも終わると、最後にまた何かが残っていた。

 時代は現代に移り、既に高校も卒業したであろう、トシヤとヒカリの大人になった後ろ姿だけがイラストで描かれている。背景は真っ青な青と太陽だった。


「ねぇトシヤ」

「ん?」

「昔君は僕の事を太陽って言ったけどさ」

「ああ、そんなことも言ったな」

「僕も、僕にとっても君は――太陽さ」


『君と見たあの太陽をもう一度 〜true end〜』



 ゲームが終わり、画面が暗くなると数十人いるはずの部屋は誰もいないかのように静まり返った。


 その後数十分ほど沈黙が終わった後、審判のスパクソ部長と虹ぺろの全会一致による、僕たち文芸部の逆転勝利が告げられたのだった。

黒崎一くろさきはじめ:九条行きつけの本屋の店長

自慢できる事:君と太陽をトゥルーエンドでクリアしたこと。


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