14.超絶ぼっちな僕、ラッキースケベしてしまう
美雲さんとの話し合いも終わり、僕は教室に戻った。
その日、僕は部活が始まるまで美雲さんとの交渉がどうなったのかについて佐々木さんや有里香には言わなかった。なんとなく部活で一斉に言いたかったのだ。
というわけで放課後になり、佐々木さんには先に行ってもらって、僕は美雲さんを連れて部活に向かった。みんなより少し遅れて行くことで申し訳程度のサプライズ感を出すというわけだ。
「おやおや、君がこんな事をするとは意外だな。意外とお茶目なところもあるんだね」
美雲さんは、移動しながらそんな事を言ってきた。
「主役は遅れて登場した方が格好いいって決まってるからね」
漫画の鉄則だ。
というわけで部室の前に到着した僕は、美雲さんをドアの前に待たせて、部室に入った。
「やぁやぁ、お待たせしたね」
「あら九条君、遅かったのね。美雲さんはまだかしら」
「どうせそこら辺で待ってるに決まってるのじゃ」
「幸村、早く連れてきなさいよ。そういうサプライズ感とか出さなくていいから。昼のあんたの反応でバレバレよ」
僕の茶番は終わりを告げた。
仕方ないので渋々美雲さんを廊下から部室の中へ招き入れた。彼女は、部屋に入ると深くお辞儀した。
「初めまして、ではないか。生徒会の美雲華凛です。よければ部員として文芸部に入れて欲しい」
美雲さんって華凛って言うんだ。何だかいい響きだ。
ちらっと小鳥部長を見ると、いつになく真剣な顔をしていた。だけどあれは、前も見たけど真剣な顔がしたいだけの顔だ。
「ふむ、美雲華凛。ひとつ問おう。お前にとって『友達』とはなんじゃ……?」
絶対に正解のない質問だが、美雲さんは顎に手を当てて考えるそぶりをした後、
「目の前にある届かぬもの、ですかね……」
そう答えた。
正直意味がわからないが、小鳥部長は満足げに頷いていた。
あれは質問とこの雰囲気が味わいたかっただけで答えはなんでも良かったんだろうな……。
「いい答えじゃ。華凛、お前の入部を認めるぞい! 私の事は小鳥部長と呼ぶが良い!」
「ありがとうございます小鳥部長」
美雲さんは微笑みながらお辞儀をした。
そして佐々木さんと有里香の方を向いた。
「君たちも、よろしくお願いするよ」
「仕方ないわね、認めてあげるわ! とはいえ先に入った私の事は敬いなさいよ華凛! あ、私の事は有里香って呼んで」
「わかったよ有里香」
有里香は純粋に部員が入って嬉しそうにしている。
佐々木さんはいつものように無表情だが、嫌悪感はなさそうだ。
「まぁ、よろしく。入ってくれて助かったわ。廃部になるのは嫌だもの」
「役に立てたなら光栄さ。よろしくね佐々木さん」
みんなに挨拶し終わった美雲さんは僕の方へと向き直った。
「さて挨拶は終わったよ、九条君。君も改めてよろしく」
「うん、よろしく。じゃあ後は正式に部員になってもらうために、『アレ』ですね小鳥部長」
「『アレ』じゃな……」
「ア、『アレ』ね。二度と思い出したくないわ……」
「『アレ』は私ももうご遠慮願うわ」
部員全員が憂鬱な顔をしている『アレ』。
流石の美雲さんも、困惑していた。
「な、なんなんだ。そのアレって」
「入部届けを先生に出しに行くのさ」
「なんだそんなことか。何を恐れているのさ」
「行ってみなきゃわからないと思うよ。誰か一人付いて行かなきゃいけないんだけど…」
僕は周りを見た。佐々木さん達は俯いていて、僕と目を合わせようとしていない。さてはこの前の有里香の猫化で怖気付いたな。
「仕方ない僕が行こう」
というわけで僕と美雲さんの二人で化学室に向かった。どうやらこの時間帯の伊達先生は職員室ではなく化学室にいる事が多いらしい。
今日の伊達先生は試験管に何かの薬品を混ぜて愉しそうに笑っていた。一人で笑ってる20代後半の教師ってやばいだろ。
「ん? おお九条か。最近よく来るな、しかもまた別の女とはやるなぁ」
「先生、こちらの美雲さんの入部届けを受理していただきたいです」
「という事はお前らまさか部員揃っちゃったのか」
「まさかってなんですか。まさかって」
「顧問とかいう苦行が終わると思ってたのにぃ……面倒だなぁ」
「仕事して下さい」
「馬鹿お前顧問なんてボランティアなんだぞ。教師という職のブラックさを知れ……!」
そういった時の先生は、目がマジだった。どうやら本当に大変らしい。
「初めまして伊達先生。一年の美雲です」
「ああ生徒会の。お前みたいな優秀な奴が文芸部なんかに入るとはな」
そりゃどういう意味だ。
「私は小説を読むの好きですから」
「まぁなんでもいいが、入るからには入部試験を受けてもらうぞ」
「入部試験? そのような制度はなかったと記憶していますが……」
美雲さんはそう言いながら僕の方を見た。申し訳ない、そんなものないんだけどこの先生の前でそんな事言ったら何やらされるからわかったもんじゃないからな。
「その通りだが、文芸部だけはあるんだよ。それとも入るの止めるか?」
「いえ、やります」
「そうか。なら始めよう、偶然ここにはポッキーがある。これを端から二人とも咥え……ああ説明めんどい。要はポッキーゲームだ! それに勝てばいい!」
またポッキーゲームかよ!
しかも先生普通に言っちゃってるし。
美雲さんの方を見てみると、特に焦った様子はない。それどころか不敵に笑った。とんでもない精神してるなこの人。
「本気でやれよ。本気じゃなかったら認めないからな」
「わかりました」
そう言って美雲さんは先生からポッキーを受け取るとそのまま口に咥えた。
「ん」
彼女は顎を突き出している。早く咥えろ、そう言われているようだ。
やれやれ……僕は覚悟を決めてポッキーの端を咥えた。
「ひくひょ(行くよ)」
美雲さんはそう言ってかじり始めた。
僕も 恐る恐るかじり始めた、が! ここで思わぬ事が起きた。美雲さんがまるでハムスターが如く高速で噛み始めたのだ。このままじゃ一瞬で僕まで到達するぞ! 気づいてないのか!?
僕はそのあまりの早さに驚いて、ポッキーを下に折って勝負を終わらせようとしたが、なんと頬を手でガッシリと掴まれて阻止された。
「ひがひゃない(逃がさない)」
な、なん……だと……!?
もしや美雲さんは本気のレベルを履き違えてるんじゃないのか!? このままじゃ逃げ場のない美雲さんの唇は僕の唇に……!
や、やばい! なんとかしないとなんとか……!
「うわっ」
その瞬間、僕はどうにかしようと身体を動かそうとして、足元でつまずいて美雲さんを押し倒してしまった。その時の衝撃で美雲さんの手が僕から離れ、ポッキーも折れたので僕たちの唇接触は避けられたのだが……。
「んっ……九条君、ポッキーゲームに『そこ』を掴むのは関係無いと思うんだが」
僕の右手の手のひらは、すっぽりと美雲さんの右胸に収まっていた。まるでマシュマロを掴んでいるかのような感触。決して大きくは無いがしっかりと主張しているその胸は僕の手を掴んで離さない。
「い、いい加減、離して、欲しいのだけど……」
今この瞬間に地球の引力の全てが美雲さんの胸に集中しているのでは無いか? そう思うほど僕の手はそこから離れる事ができない。
きっと世界はここに集約しているのだ。一は全、全は一だ。
「いつまで触ってんだ馬鹿、九条。教師の前で不純異性交遊とは喧嘩売ってんな」
先生に頭をバインダーのようなもので叩かれた。
はっ……! 僕は一体何を?
僕は美雲さんから離れた。彼女は少し頬を赤らめている。
「少しからかうつもりが……してやられたよ九条君」
「よくわからないけど。美雲さん……」
僕はそこでここ最近で一番の笑顔を作った。
本心からの笑顔だ。
「ありがとう……!! ――痛っ!!!」
先生に再びバインダーで叩かれた。三村君、ラッキースケベをするつもりなんて無いって言ったけれど、ごめんあれは嘘という事になってしまったよ……。
こんな感じで美雲さんは正式に文芸部の部員となったのだった。
伊達美優(27才独身)
ランキングなかなか上がってくれないですねぇ…
ポイント下さい下さい下さい下さい下さい(血涙)




