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13.超絶ぼっちな僕、部員の勧誘に成功する


 僕は部室にある机を手のひらで叩いた。力がないのであまりいい音がしなかったが、部室のみんなは僕に注目した。


「元帰宅部の僕の経験からみて、今の君たちに足りないものがある――危機感だ」


 僕はキリッとキメ顔を作ってそう言った。

 さぞ決まったことだろうと周りを見たが、全く感心していなかった。佐々木さんなんか呆れた顔をしている。


「九条君、それを言うならもっと筋肉をつけてサングラスでもつけた上で言ってほしいわね。セリフと見た目が釣り合っていないもの」


 なんだか酷く恥ずかしくなってきた。


「まぁとはいえ、部員探しが難航している今、余裕こいている場合ではないのも確かだわ。ポスターの効果もないようだし」


 あれで効果あると思っていた事が驚きだよ。


「本当は一人一人勧誘するのが一番効率はいいんでしょうけど……」


 そう言いながら佐々木さんは、僕たちを見渡して、


「私たちが率先して他人に話しかけられるわけもないしね」


 そう言った。間違いない。誰も反論できなかった。

 用事もないのに話しかける、そんなコミュ力があればぼっちではないのだ。


「いよいよ困ったのう……」

「これからだっていうのに……! 私が勧誘できれば! でもクラスの女子にはうざがられてるし……」


 有里香がさらっと切ない事言ってるな。

 確かに弱ったな……そもそも文芸部に入りたがる人間がそんなにいないのに、勧誘して入るとは思えない。そういう場合普通、友達がいるから入ったりするものだが、厄介なことに僕たちは友達いないオールスターズだ。

 八方塞がりってやつだ。本当に困った。困った……?


「あ」


 僕はそこで一筋の光を見た。

 文芸にある程度興味がありそうで、なおかつ困っていて助けてくれそうな人物。僕は一人だけ心当たりがある。


「どうしたのよ幸村。いつもより更に間抜けな顔してるわ」


 いつも僕は間抜けな顔してるのか。どんな顔だよ。


「心当たりを一人見つけたんだ」

「誰誰?」

「生徒会の美雲みくもさんだよ。彼女なら文芸好きだと思うし、可能性がある!」

「ああ彼女ね、ふうん。なら誘ってみる価値はあるかもね!」


 有里香は結構ポジティブに捉えてくれたようだ。そう思っていると、佐々木さんがいつも通りのクールな表情で、


「あら。でも彼女はリア充の雰囲気を感じたのだけれど大丈夫なのかしら?」


 そう言った。まぁ確かに誰も友達がいないこの部活においては、美雲さんは確かに異質かもしれないけれど……。


「美雲さんは誰かを貶めたり除け者にしたりすると人じゃなさそうだから大丈夫だと思うよ」


 一度しかちゃんと話してないけどね。まぁ僕は大丈夫だと思っている。言うなれば勘だが、確信を持っている。


「へぇ随分とその人の事を信頼しているのね」

「まぁある程度はね。いい人だと思う」


 僕がそう言うと、佐々木さんは少し眉をひそめながら「ふうん」なんて言って、興味がなくなったのか小説を読み始めた。


「でも美雲さんって何組なんだろう」

「あの子は二組よ。私と同じ」


 有里香がそう言った。有里香って二組だったのか。


「クラスではどんな感じなの?」

「昼休みは友達二、三人とお弁当を食べてる印象があるわね」

「ちなみにその時有里香は?」

「ひとりぼっちで食べてるわよ! 何よ! 私は食に没頭してるのよ、食没よ!」


 食没してるなら僕たちのところにわざわざ昼休み来ないと思うけれど、言わないでおこう。


「ふむ。じゃあ幸村にはその美雲とやらを誘ってもらうとしよう。頼んだぞい」

「わかりました。明日誘ってみます」


 そう言ってその日の部活はだらだらと過ごして終わった。

 そして次の日の昼休み。


「幸村、今から行くの?」


 すっかり僕たちとご飯を食べるようになった有里香がそう聞いてきた。


「うん。あっちも食事終わってるだろうし」

「せいぜい気持ち悪がられないように気をつけることね」

「君は僕をなんだと思ってるんだ」


 佐々木さんのいつもの攻撃を受けつつ、僕は席を離れて隣の二組に向かった。

 とりあえず、教室の扉から中の様子を伺ってみる。確かに美雲さんは二人の女子生徒と話していた。

 あ、あそこに割って入るのは勇気がいるな……。ええい、ままよ!

 僕は勇気を振り絞って美雲さんの方へと向かった。するとあちらが僕の存在に気づいて、立ち上がってくれた。


「やぁ九条君。そろそろ来る頃だと思っていたよ」


 そう言って彼女はニコリと微笑む。


「ああ、ええと、少し話したいことがあるから付いてきてくれないかな」

「いいよ、付いていくとも」


 美雲さんはその場の友達二人に断って、僕に付いてきてくれた。廊下を歩いて、誰もいない多目的室に入る。


「ここでいいかな」

「誰もいない教室なんかに連れ込んで、私に何をするつもりかな?」

「へ、変な事はしないさ」

「くっくっく。わかっているよ、冗談さ。そんなに狼狽える事はないだろう」


 美雲さんは愉快そうに笑う。なんだか恥ずかしくなってきたな。


「それで、僕からの話なんだけれど……実は君に文芸部に入って欲しいんだ」


 僕は前置きを一切省いてそう言った。

 美雲さんは特に驚くこともなく、少し間を置いた後こう答えた。


「ふむ、想定内ではあったけれど……万に一つでも……そう思ってしまう。やはり期待はしてしまうものだね」


 美雲さんはそう呟いた。僕には何を言っているのかわからなかったけれど、そう言っていた時の彼女の顔は少し寂しそうだった。


「おっとすまない。部活だったね。わかった、いいよ。入らせていただこう。でもひとつだけ条件があるんだけどいいかな」

「条件? いいよ、僕にできることなら」

「私のお願いをひとつなんでも聞いてもらう権利をくれないかな」

「お願い? ひとつでいいの? それでいいなら勿論いいよ」

「くっくっく、なら交渉成立だね。私は今から文芸部部員だ」


 そう言って美雲さんは手を差し出してきた。僕はその手を掴み、握手をした。当たり前だが女の子らしい柔らかい手だった。


「ありがとう! いやぁ良かった」

「くく……私もお役に立てて光栄さ」

「ええと、それで誘った後に言うのもなんなんだけれど、文芸部っていうのは友達がいない人の集まりでね。見たところ美雲さんは友達がいそうだったから、それだけ心配なんだけれど……大丈夫そうかな?」

「『友達』、か……」


 そう言って彼女は窓の方を見た。

 少しして僕の方へと振り返る。


「ねぇ九条君。君は友達ってなんだと思う?」

「その質問は友達がいない僕にしても意味がないと思うよ」

「そうかな。そうかもしれないね……ただ私はね、友達なんていないよ」

「でも仲のいい女子がクラスにいるって聞いたけれど」

「ああ、いるよ。仲良くしている子は何人かね。いい子達だし、私も彼女達と話すのを楽しく思っている。本心さ。ただそれは私にとっての『友達』じゃないんだ」


 美雲さんは、落ち着いた声で話を続ける。


「小学校中学校と仲のよかった子達はいた。けれど今、その子たちと積極的に接する機会はあるか? 殆どの場合無い。あったとしても、話すのは過去の思い出話や近況のことを少し話す程度だろう。それはお互いの事を理解できているとは言えないと思うんだ」


 正直ぼっちの僕にはあまりよくわからない話だな。


「私は真の友達が欲しい。表面上の付き合いじゃなく、真にお互いを理解し合える友達がね」


 ただ一つわかったのは、美雲さん、この人も思ったより厄介な人そうだという事だ。なんで文芸部には常識枠の人がいないんだろうか。


「つまり美雲さんは文芸部でその真の友達というのを探すキッカケを作ろうとしてるのかな?」

「まぁそういう事だね。そうキッカケ。これは重要なことさ。キッカケがないと始まりもしない、そうだろう?」

「ああ、それなら僕にもわかるよ」

「くっくっく、なら良かった。じゃあこれからよろしく頼むよ。九条君」

「こちらこそ、美雲さん」


 僕たちはお互いに笑みを浮かべて、爽やかな挨拶を交わした。そこまでは良かったのだが、


「さて、こうなってくると問題は直近に控えている虹ぺろ同好会との『いくさ』だね」


 そんな事を彼女が言った。

 やれやれ、どうやら僕たちの部活は簡単に始まってはくれないようだ。

 僕は静かにため息を吐いて、その戦とやらについて話を聞くのだった。




実は美雲さんは熱烈なファンクラブがあります、女子からの。


ポイント沢山入れていただきありがとうございます!

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