12.超絶ぼっちな僕、十二番隊隊長と話す
結局最後のごちゃ混ぜポスターが採用されて、学校の至る所に貼られることになった。
あの人たちは部活を存続させたいのか潰したいのかいまいちよくわからない。
そんなポスターが貼られて数日経ち、学校に行ったある日のこと。僕はいつものように空気が如く教室から出て、放課後文芸部に行こうと思ったのだが、なんとクラスメイトに話しかけられた。
太っていて腹がベルトの上に乗っている。銀の眼鏡をかけていて、天然パーマの男子。その生徒は同じクラスの男子、アニメオタクの三村君だった。
まぁどうせ佐々木さんに用事があるのだろう、そう高を括っていたのだが、
「用があるのは九条氏の方でござる」
そう言われてしまった。すると佐々木さんは、
「よかったわね、お付き合いを始めるなら応援するから連絡だけ頂戴」
とだけ言って、部室に向かっていった。友達という考えは万に一つもないんだね。
「それで、僕に何の用だい? 三村君。君と最後に話したのは四月頭だったと思うけど」
「うむ、その通り。忘れるわけがない、あれで九条氏と拙者の宿命が決定付けられたと言っても過言ではないでござる」
いやそれは過言じゃないかな。
だが彼が言っていることは事実で、僕はこの三村君とは初対面ではない。実は学校が始まって早々に会話をした過去があるのだ。
あれは四月の頭のある日、三村君がアニオタ感満載の美少女ストラップを落として、僕が拾った事で始まった会話だ。
「やぁ落としたよ、これは魔砲少女テンネのキャラだね」
僕はそう言って彼にフィギアを渡した。何故僕がそのキャラの名前を知っていたのか。断っておくと、僕は少年漫画や青年漫画は詳しいが、深夜アニメ系は明るくない。
にも関わらず、深夜アニメのキャラを知っていた理由はうちの妹にある。妹はアニメが大好きなので、たまに無理やり視聴させられることがあるのだ。その一つが魔砲少女テンネだった。
これは主人公の女子高生がひょんなことから砲台をぶっ放す魔砲少女になってしまうというとんでもストーリーなのだが、これがなかなか熱いストーリーで思わず僕も引き込まれた。だからキャラも知っていたのだ。
「おぉ、こんなところに同志がいたとはびっくりでござる。お主は確か、田島殿だったかな」
「いや九条だけど」
そういえばあの頃から僕は既に田島と間違われていたのか。田島ってなんなんだよ……。
とまぁそんな感じで最初は順調に話し合っていた僕たちだったが、やがて……
「それはおかしいでござる! あの時のルリィちゃんは明らかにテンネちゃんの事を思っての『馬鹿』だったでござる」
「違うね、あの『馬鹿』発言は己の状況を鑑みての皮肉的な意味を込めた馬鹿だ!」
「九条氏とは相容れないでござる!」
というわけで僕たちは一瞬で喧嘩した。
それは結局キッカケに過ぎなかったのだと思う。結局僕が好きだったのは展開やストーリーだが、三村君が好きだったのはキャラだったので、もともと話が噛み合っていなかったのだ。
そんな僕と三村君の小さい因縁だが、彼は結局今日は何しに来たんだ?
「で、三村君は何しに来たのさ」
「話に聞くところ、九条氏は文芸部に入ったようでござるな」
「ああ、うん。まぁね」
「単刀直入に言おう。九条氏、文芸部を辞めてくれでござる」
三村君は眼鏡をくいっと持ち上げてそう言った。
「いきなり不躾だね。どういうことさ」
「文芸部は今、廃部の岐路に立っているのは知ってるでござろう。だが、文芸部が廃部される事で部活に繰り上げされる可能性がある同好会の存在をご存知かな?」
「あぁ三つくらいあるって聞いたよ」
二次元ペロペロだの、クソゲーだの、秘密結社だの、そんな感じだったはずだ。
まさか……? 僕はそこで疑惑の視線を三村君に送る。すると
「左様。拙者こそ同好会最大勢力『二次元美少女にクンクンペロペロしたいの会』十二番隊隊長、三村隆景にござる!」
「な、なんだってー」
僕は一応オーバーリアクションをしておいた。
それにしても漢字多くて覚え辛い。なんだよ十二番隊とか隊長とか。人体実験してそうな隊長だな。
それに三村君名前格好いいなおい。
「さしもの九条氏も驚きを隠せないようでござるな。拙者が『虹ぺろ』の隊長とは思わまい。ちなみにこっちの虹は七色の虹でござる、ここちょっとポイント」
「どうでも良いこだわりだね……虹ぺろって同好会名の略語か……隊長とか聞くと話がややこしくなりそうだから敢えて無視するけれど、結局君は僕に何の用なんだい」
「ふっふっふ、まぁそう急くな、でござる。拙者、文芸部のポスターを拝見したでござるよ」
「う、あれを見たのか」
正直燃やしてしまいたいくらい恥ずかしいポスターなんだが。
「酷い出来でござったなぁ。あれを見て思ったが九条氏は文芸部に本当に思い入れがあるでござるか? あんな適当なポスターを作る部活でいいんでござるか!」
思い入れがあるかと問われれば間違いなくそんなものは無い。だいたいまだ入って二週間程度だ。
とはいえ、
「まぁ、悪いところではないよ」
無色だった僕の生活に色がついたのは間違いないだろう。
「どうせ佐々木氏を狙って入ったのでござろう? んん? ラッキースケベを狙ってるんでござろう?」
グイグイくるなこの人。それに絶妙に腹立つ顔をしている。そういえばこの顔がうざったいのもあって前喧嘩したんだった。
「別にそんな事はないよ。というか結局何が言いたいのさ」
「早い話が九条氏、君が抜けてくれれば文芸部が廃部になる確率がぐんと上がる。そうすれば虹ぺろが部活になりやすいので、君には退部していただきたいのでござる」
「よくわかったけれど、その話は僕にメリットがないな」
「ふふ、そういうと思ってプレゼントを用意してるでござる」
「何……?」
三村君は口元をつりあげて、悪代官のような笑みを浮かべた。まさに賄賂を渡す時にうってつけの表情だ。
彼は自分のバッグをごそごそと漁ると、僕にそのプレゼントを見せてきた。
「幻の『ヤンデレ戦士レイ』全世界100体限定フィギュアを君にあげるでござ――」
「いらない」
その作品見た事ないし。
僕がそう答えると、三村君はメデューサに睨まれたかのようにそこから動かなくなった。
彼の用事も済んだようなので、僕は固まった彼を放っておいて、部活に行くことにした。
当たり前だが部活には既に他のメンバーが集まっていた。
「遅かったのう。クラスメイトの男子からの愛の告白は済んだのか?」
「そんなんじゃなくて、二次元美少女をクンクンペロペロしたいの会の十二番隊長三村隆景君から部活を辞めるように脅迫されてたんですよ」
「幸村よ、日本語でおkじゃ」
これ以上なく簡潔にさっきまでの状況を説明したと思ったんだけどな……。
仕方ないのでもうすこし噛み砕いて説明した。
「――というわけです。あ、虹ぺろの虹は七色の方の虹だそうです」
「なるほどのう。最後のこだわりはよくわからんが、虹ぺろか……私たちの最大の障害じゃな」
部長は、いやに真剣な顔をしてそう言った。絶対今そういうシリアスな雰囲気を出してみたかっただけだなあれ……。
そう思っていたら有里香も立ち上がって吠えた。
「面白くなってきたじゃない! 勝負は張り合いがないとつまらないもの!」
「いや、今のままじゃ勝負になってないんだってば。僕たち部員足りてないんだから」
廃部の危機ってわかっているのだろうか。
「まぁでも有里香のいう事も一理あるわ。そもそも――」
「え、今有里香って言った? ねえねえ雫。有里香って呼んだよね? ねえってば」
佐々木さんが何か言おうとしたのに、有里香が思いっきり被せてきた。名前で呼ばれたことがよほど嬉しかったのか目を輝かせている。
佐々木さんは鬱陶しいそうにしているが、すこし照れているようにも見える。なんだこれ。
僕たちは果たしてもう一人の部員を見つけることが出来るのだろうか、そんな不安に駆られながらもアホらしくもなってきた僕だった。
ちなみに一番隊から十二番隊まであります
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