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ドラゴンの守るもの  作者: 紀舟
末弟、人敵竜レオリールの場合
1/1

宝物は守るものです

「私たちドラゴンは宝物を守る種族です」


 僕たちドラゴンの兄弟は幼い頃からそう言い聞かされて育った。


「生涯でただ一つの宝物に出会うことこそがドラゴンの幸せであり、時にそれは生命の欲求すら凌駕することがあります」


 それはそれは楽しそうに母が話すので、“たからもの”とは何なのか、幼すぎて分からなかった僕にも、きっと素敵なものに違いないということだけは分かった。


「せいめいのよっきゅうって?」


 これを聞いたのは誰だっただろう。

 敷かれた木の葉に寝転んでいた長兄だったか、退屈そうに外を見ていた次兄だったか。それとも僕自身だったかもしれない。


「子孫を残そうとすること、獲物を取ってお腹を満たすこと、眠くなって眠ることよ」

「それってお腹がすいてても眠くても、宝物がダメって言ったらがまんしなくちゃいけないってこと?」

「ええそうよ」

「ええー?なんか面倒くさそうだなぁ、宝物って」


 これを誰が言ったかは覚えている。

 長兄のグランロールだ。

 彼は兄弟のなかで一番面倒くさがりで、狩りのときですら何かとサボろうするところがあった。


「そんなことはないわよ。宝物は素晴らしいものよ」

「たからものなんかどうでもいい」

 これを言ったのは次兄のイクスミール。

 次兄はグランロールのようにサボることはなかったが、何にでも無関心で言われたことだけを淡々とこなすドラゴンだった。


「あなたはどう?レオリール」


 名前を呼ばれて僕は興奮で羽をぱたぱたさせながら言った。


「すごくいいね!たからものって!ぼくもはやくたからものにあいたい!いつになったらあえるのっ?」


 その言葉に母は満足気な顔で僕に頬ずりをした。


「宝物の良さが分かる子はレオリールだけのようね」


 くすぐったくてゲラゲラ笑う僕を、何がそんなに楽しいんだと少し冷めた目で兄弟たちが見る。


「さぁ宝物の話は今日は終わりにしましょう。子供たち、母は少し外に行ってきます。良い子にしているんですよ」


 母は僕たちを置いて出かけることが多かった。


「でーと?」

「デートか」

「デートだな」


 相手は父だ。

 母の宝物は父で、父の宝物は母だった。

 そのため子どもである僕らであっても母の一番にも父の一番にもなることはない。

 二匹とも僕らには獲物を狩る手段と必要最低限の生活の知恵を授けただけでほとんど放置。いつも母と父は一緒にいて、稀に気まぐれを起こして子育てをするという生活を送っていた。


 しかしそれで僕たちが困ったことなどなかった。

 何と言ってもドラゴンは世界最強の生き物だ。子どもであっても、捕食されることもなければ危害を加えられることもない。

 それに僕たちの寝ぐらの近くに伯父の巣があった。

 困ったことがあれば伯父を頼ればいい。

 僕たちはよく三匹で伯父の巣に遊びに行っていた。


 母や父がいなくなると、兄弟三匹は連れ立って伯父のもとへ行く。

 伯父の巣は昔滅びた国の古城だった。

 伯父が滅ぼした訳ではない。人間たちが打ち捨てたあと伯父が立ち寄り寝ぐらにしたのだ。

 巣には人間たちが言うところの『宝物が好きなドラゴン』という想像通り、いろんなものがたくさんあった。


 古びてはいるが意匠を凝らした銀食器のセット。金貨のたくさん詰まった宝箱。光り輝く大粒の宝石たち。

 伯父は人間たちの作ったきらきらしたものに囲まれ広々とした大広間にいつも腹ばいになっていた。

 伯父が立ち上がったり移動したりしたところを僕は見たことがない。

 その姿はまるで古城を守っているかのようだった。


 たぶんこのきらきらしたものたちの中のどれかが伯父の宝物なのだ。

 ならばこれだけたくさんのものが溢れかえっているのだ、この中に僕の宝物もあるかもしれない。

 僕はそう思って、いつも伯父を訪ねると、この古城を探検した。


 兄たちは宝物に興味がないようだった。

古城に来てもグラン兄さんはすぐにぼろぼろの布切れベッドで寝てしまうし、イクス兄さんはどこかへふらっと出て行き、僕らの巣に帰るころにふらっと戻って来た。


 二匹とも宝物にも伯父にも用がないなら古城に来なければ良いのに、僕が伯父の巣に行こうとすると何故かいつもついてきたし、一匹で伯父に会いに行っていることもあるみたいだった。


 兄たちが何を考えているのかは分からない。

 けれどこれだけは共通していたと思う。

 僕たち兄弟は三匹とも伯父が大好きだった。

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