第1章 これは夢か現実か
「私の右手に宿いし力を受けるが良い! アルトセクトーーー!!!」
ドカーーーン!!!
右手から出た眩い高エネルギーの塊は、周りに強い衝撃波を残しながら目の前の盗賊に当たった。
「これに懲りたら2度とこの村を荒らすんじゃ無いよ! 分かったらとっとと立ち去れ!!」
可哀想な程にボロボロな盗賊は怯えた顔をして走り去って行った。 覚えてろ! という捨て台詞を残して。
「ほ、本当にありがとうございます」
この村の村長のヨボヨボのおばあちゃんが私に言った。
「いえいえ。私はただ悪を滅しただけです。当然のことです!」
「それでも私たちにとっては、有難いことです。村の者に知らせてまいります。さぁこちらにどうぞ。今宵は宴にいたしましょう。さぁどうぞ」
中々強引なばあちゃんだ。
「ど、どーしてもと言うのであれば行ってやっても良いぞ」
「では、こちらに」
それにしても、このばあちゃん性格も強引だけど、力も中々だな。あの盗賊勝てたんじゃないの?
ぐいぐいくるなー。
テントの外からは楽しそうな音楽が聴こえてくる。
「救世主様。この度は本当に有難うございます。改めてお礼申し上げます」
目の前でおじいさんが見事な土下座を披露してくれた。
凄いよこのおじいさん。こんな完璧な土下座見たことが無い!
「面をあげよ。(これ言ってみたかったんだ!) 礼を申すのはこちらのほうだ。素晴らしい宴を有難う」
「おぉ! 有難いお言葉!………………失礼ですが、救世主様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
なんだ名前か。いきなりもじもじし出すからトイレに行きたいのかと思ったぞ。危ない危ない。失言するところだった。
「名か、我が名は嶺岸 小春だ。気軽に小春と呼んでくれ給え」
「小春様!! 素晴らしい名前でございます。村の若い衆の中でもイケメンな者たちを用意いたしましたので、お楽しみください」
ここでもイケメンって言葉あるんだ。へー。
「小春様。お待たせいたしました。ハッサンと申します」
わぁー! 何このお兄さん! 肌めっちゃ綺麗。鼻筋もスッキリしている。正直に言おう、タイプだ!!
だ、だが!!
「わ、我はイケメンでも屈しないぞ」
そ、そんなキラッキラスマイルでも…………
すいません。完敗です。
「小春様!ちょー可愛い!!」
「レオ、身をわきまえろ!小春様だぞ。」
えッ!?何あの子。レオっていうの。めっちゃ可愛い!もう目がくりっとしてて、小顔で、口も小っちゃくて、ヤバイ!
ジュル
しまった。ついよだれが……
落ち着いてあたりを見渡すと、イケメン、イケメン、イケメン、イケメン、イケメン………!!!
「パ、パラダイス」
最後に見たのは、頭上で綺麗な放物線を描く赤い液体とイケメンの面々……
最っ高! 今なら死ねる!!
そこで私の意識は切れた。
「………は……る…」
誰だ。 我が名を呼んでいるのは。
「……こ……る」
「小春!! 早く起きなさい!!!」
もの凄い怒鳴り声で飛び起きた。
ドーーン
「いてっ!」
どうやらベッドから落ちたようだ。ん? ベッド?
眠たい目を擦って辺りを見回しみる。
うん。自分の部屋だ。
「何だ。ただの夢か。イケメン……魔法…」
「 何訳の分からないこと言ってんの。早く準備しないと遅刻するよ。もう2年生でしょう?」
お玉を手にお母さんが入って来る。
「もう7時50分よ。ギリギリだよ。二度寝! しないでね」
それだけ言うと出て行った。
「ギリギリって言われてもな」
朝に弱い体を無理矢理動かして、制服に着替えた。
「ヤバイ! 8時10分だ!! お母さん今日ご飯いらない。行ってきまーす」
お母さんの行ってらっしゃい、という声を聞き流しながら、 玄関脇に停めてある自転車に乗った。
「右良し! 左良し! 私良し! 出発進行 !!」
時計を確認する。8時13分。全速力でいけば間に合う!良しOK。
勢いよく漕ぎ出した。
だが、運動不足で自転車を漕ぐのに必死過ぎて周りの異変に気づかなかった。