夜の夢の変わり者
夢の匂いがした。くんくんくん。象までとは言わない、それでも人よりも長い鼻をひくつかせながら僕は引き寄せられていく。
引き寄せられたその方向には同じ布団で眠る双子の少年が苦しそうに呻いている。恐怖の匂いがする。僕は長い鼻で匂いを嗅ぎながら少年達の側を歩き回った。
もう既に汗がたらたら吹き出していて、お互い意識してないのにギュッと手を握りあっている。
僕の出番だろうか。時折夢の中に現れる怪物を退治するのに手を貸してやるべきだろうか。二本足で立ち、手を口元にやりながら、僕は双子の回りを歩く。
食べちゃおうか。でも、そんなことしてると二人から大切な夢は消えてしまう。僕のお腹の脂肪になってしまう。せっかくの夢だからできれば覚えてて欲しい。
見回してみてもあるのはスーパーヒーローのフィギュアとかだし、誤って目を傷つけるようなことはしたくない。ぬいぐるみも、遊ばれ過ぎて目が取れかかっていて、これじゃあさらに怖い。
僕は意を決して2人の間に飛び込んだ。ギュッと握られたその手を掛け布団がわりにして、僕もまたその手をギュッと握り締めた。
目の前には大きなタコの怪物。勇者になった双子は一生懸命戦っている。タコが足を振り上げて、双子に影が落ちてきた。僕はすぐに双子の前に走る。
「よぉし!僕に乗って!」
双子が顔を見合わせてから、風船が膨らむように体が大きくなっていく僕の頭に1人ずつ乗ってきた。いつの間にかタコと同じくらい大きくなった僕の体はまるでスーパーヒーローのロボット。もちろん頭は操縦席だ。
「二人とも、そのレバーを一緒に引いて!」
大きなロボットになった僕の頭から突き出たレバーを、双子はよいこらしょと同時に引っ張った。すると、僕の鼻からたくさんの飴玉が降ってきた。
大きく鼻から息を吐くと、ホースで水をかけるように包み紙に包まれた飴玉がタコに降り注いだ。
飴玉に当てると、ビルも飲み込みそうなほど大きかったタコはみるみるうちに小さくなって、やがて双子が片手で捕まえられるほどに小さなタコのフィギュアに変わってしまった。
双子を頭から下ろすと、僕もまた双子と同じくらいの大きさまでしぼんでいった。大きいときはわからないけれど、小さくなってみればそこは一面飴玉のプール。イチゴも、ソーダも、マンゴーも、味という味が揃っている。海で水を掛け合うように、僕らは飴玉プールで飴玉を掛け合った。
母はそっと双子を見た。
いつの日からか突然欲しがり始めたぬいぐるみは、買ったその日から二人がギュッと抱き締めて毎晩決して離さない。笑い声も聞こえてきそうな楽しそうな顔をする二人の夢の中にその子はいるのかしら。
黒と白の、鼻の長いその子が。
僕はバク。普通は夢を食べちゃう生き物だ。でも、僕は悪夢を素敵な思い出にできるように、少し手を貸すのが好きな変わり者。
おや?また夢の匂いがしてきたぞ。
もしも怖い夢を見たら、僕を思い浮かべてほしい。その時は怖い夢を一緒に楽しい夢に変えようね。