耳のない未来
ふと気がつくと、僕は暗闇でひとりきりだった。
「おーい、おーい」
声をかけてみるが誰も返事をしない。持ち物を確認するためにポケットの中を探ってみるが、なにも入ってはいない。
次の瞬間、ぱっと光が射したかと思うと、僕は椅子に座っていた。ただ椅子に座っているわけではない。
動く物体に備え付けられた椅子に僕は座っていた。動く物体は長方形のようで、扉が4つある。僕が座る長椅子の向かい側にも同じような椅子があったが誰も座っていない。
ガラス窓の向こう側は暗闇だった。
動く物体の鼓動が心地よく、僕はうとうとと船を漕ぎ、そのまま寝入ってしまった。
眼が覚めると、僕の周りにはたくさんの人がいた。座っている人もいれば立っている人もいる。
そのうちに僕は奇妙なことに気がついた。
全ての人が、僕の見る限り全ての人が耳に見たことのない機械をつけていた。ある人たちの機械からは紐が2本伸びており、途中で合流し、その紐が四角い機械につながっているようだった。
あまりにもおかしな光景に恐れをいだいたが、勇気を出して隣に座る日本人と外国人の混血なのだろうか、アジア顔で金色の髪をした男性に声をかけた。
「すみません」
沈黙がはしる。僕の声が小さかっただろうかと思い、もう一度少し大きな声をかける。
「あの、すみません」
彼は沈黙したままだった。
他の人々にも声をかけたが結果は同じだったが、薄々とわかってきていたことがあった。
「彼らが返事をしないのはあのおかしな機械のせいではないか?」
耳を塞ぐように取り付けられているのだ。周りの音が聞こえないのは当然だろう。
その時動く物体が速度を緩め、やがて止まりそれと同時に向かい側の扉が開いた。
「こんな夢はごめんだ」
少年はそう言って闇に溶けた。