1章:2丁目の煙page4
エッグベネディクトをすっかりたいらげてしまった美波は母有希子にロンドンでの生活について忙しなく質問したがあまり語ってはくれなかった。
分かったことは母有希子はロンドン北西部に位置するカムデンという区間に住んで居たらしく、よく大英図書館にこもり読書に明け暮れていたらしい。次にロンドン証券取引所という場所でなんらかの仕事をしていたらしいという事。このらしいとは、本当に事実か私には分からないからだ。実の所、母が何をしていて、私達家族の家計はどうやって支えられているのかさっぱり分からないのであった。
「お父さんはママが何してるのか知ってるの?」エッグベネディクトを食べ終え新聞を読みながら左手にコーヒの入ったマグカップを持つ父に聞いてみた。
「ん?どうだろうね。知ってもいるし知らないでもいるよ。」
といつも通り要領を得ない回答する父に少し腹がたち、言い返そうとする私を遮り有希子が
「みなみ、久しぶりに二人で買い物でも行きましょうか」
と、私が願っていた事を唐突に言われたので、父にいい返す機会を逃し、私は発しかけたセリフを呑む込む他なかった。
「なら晩ご飯は僕が作っておくよ」
「ありがとう、よろしくね。じゃあみなみ久しぶりに一緒にお風呂でも入って支度しましょ?」母の有希子と会うのは、中学1年生の時以来なので丁度丸4年会っていない事になる。だからと言って私の成長具合を事細かに知ろうとする母親を素直に受け入れる気にはなれなかった。
父に目線で助け舟を求めると父は、少し口角を上げ首を振ったのでいよいよ助けてくれるものはいなくなった。
かくして、松村家の浴槽に二人の美しい乙女の楽園が出来上がったのである。