プロローグ「松村美波」
目を開けると天井の木の木目が私を現実に引き戻してくれる。
この世界には夢を見る人、見ない人。
夢を覚えている人、覚えてはいない人。
そして夢とリアルが結びつくような不思議な事を経験する者がいる。
昨夜の夢はとてもとても素敵だった。またあの人に会えた。
コナン・ドイルが書いた「シャーロック・ホームズ」の緋色の研究という小説の中の
リウシ・ファリアとジェファスン・ホープに姿を模した私と彼が食卓を囲みさぞ贅沢な料理を共にしていたのである。私は度々自分の好きな世界に夢として入り込んでしまう事がる。その度に現れるどこの誰かもわからない彼に私は10年も前から恋してるのである。
元々人と積極的に会話をする方ではなかった私は友達もあまりできなく、学校に通う理由をついに見つけることはできなかった。幸いな事に父親が経営しているレトロな風貌の雑貨屋で働く事となり高校に行く理由も必要も無くなった。
私は父の雑貨屋がとても気に入っている。街へ一歩出れば人々が繰り出す騒音に耳をえぐられ、上を向けばとても見栄えがいいとはいえぬ外観の建物が不揃いに所狭しと詰め込まれている。こんな世界一体誰が作ったのだろうかといつも訝かしむ。しかし父の雑貨屋はそんな風景からかけ離れ、まるで別の世界へと誘ってくれる。
アンティーク調のペンダントライトやビンテージ風の内装が一躍買っているのであろう。
普段10時に店を開け20時まで営業しているのだが、元々父の趣味も兼ねているためお客さんのほとんどが、父の友達か近所の紳士なおじさま達ばかりなので仕事という仕事は特に無かった。
今日もいつも通り店内に流れるノラ・ジョーンズを聴きながら私はコーヒを飲んでいた。
:「チャリーン」店の扉が開く音
右手に持ったマグカップを机に置き、扉を見た。店先で骨董品を整理していた父が何やら楽しそうに初見の若い男の人と喋りながら歩いてくる。一目見てすぐに分かった。彼は、浦飯幽助であり、七月隆文さんの作った南山高寿であり、昨夜の夢をともにしたジェファスン・ホープだったのだ!
この日を境に私は恋に落ちたのだ。
そんな私達の不思議な出会いを今から皆さんにお話ししていきたいとお思います