代替わり
背後を振り返れば、見逃していた店名が見えた。
『小物屋、飛び立ち草』
こんもりとした葉の中から、鳥のくちばしのようなつぼみが飛び出す様から名付けられた花の名前が使われていた。
瀟洒なその建物と、あのどす黒い建物がつながっているとは想像もつかなかったがそれもまた持ち主をまねたようにも見える。
「とりあえず、賭けは俺の勝ちだな」
マディソンの言葉に、部下の顔が引きつる。
「ちょっと待ってくださいよ」
年齢、性別、本名すべてが不明の呪具屋闇夜鷹。しかし、さすがに警察の取り調べであれば、そのすべてを明かさざるを得ないだろう。
そう考えての賭けだった。
年齢はさすがに幅が大きすぎたため、男か女かで賭けた。
結果として、女性、マディソンの勝ちだった。
「たかがお茶一杯だろう、けちけちするな」
不満そうな部下にそういう。どうせ、職場の、安いだけが取り柄のお茶だ。
「おかえり」
呪具屋専門の部署に一応顔を出した。
「取り調べは終わったかい?」
「ああ、久しぶりでちょっと様子が変わっていたよ」
「そうなのか、まあ代替わりしたからな」
「代替わり?」
背後の部下が不思議そうに聞いた。
「そう、先代の時も似たような事件で取り調べたよな、お前と俺で」
呪具屋専門の部長を務めるかつての同僚をマディソンはちょっと後ろめたい気分で見た。
「当代は、フェアリスちゃんだったよ」
呪具屋専門部長は目じりのしわを深くした。
「しかし、あのお嬢ちゃんがもういっぱしの呪具屋になったか、俺たちも年を取るはずだ」
先代の取り調べの時、ドアの隙間からこちらを除いていた小さな少女の姿を思い出す。
フェアリスは当時の面影を少しだけ残していたが、やはり見違えた。
「もう結婚してるそうだぞ、実際あの小さなお嬢ちゃんの片鱗すらほとんど残っていない」
「先代の娘ですか、あの、最初から知ってたなんて言いませんよね」
世にも恨みがましい顔でマディソンを睨む。
「おいおい、結構正直な賭けだぜ、何せ、確実にあのお嬢ちゃんが跡目を継いだか俺にはわからなかったんだからな、別の弟子が継いだ可能性も小指の先ほどはあった」
「詭弁って知ってますか?」
「小指の先ほどは大げさだよ」
呪具屋専門部長が言う。
「呪具屋の子供が呪具屋になれると決まったもんじゃない、むしろそういう可能性は稀だ。弟子がついている可能性のほうが高いと思うね」
魔力は遺伝が不安定だ。魔力を持った両親から魔力を持たない子供が生まれることもあるし、魔力を持たない両親から魔力を持った子供が生まれることもある。
呪具屋は、魔力持ちの中でも特殊な才能が必要とされる。二代続くことは極めてま