3.いえ、愛に順番はないんですけどね?
※本文の体裁を修正しました(2030.2.9)
キーンコーンカーンコーン……。
「おーい、起きろケンター、授業終わったぞー?」
聞きなじみのある声。
「……ん~、ノブハルかぁ~。今、何限だっけ?」
「つーか、昼飯だよ昼飯。午前中寝倒すってどーなんだよ?」
膝を軽く叩かれて、思わず苦笑してしまった。
それにしてもノブハル、お前そんな小さかったっけ? 身長、俺の口の高さに届いてないんだけど?
「そうなん? 道理で長い夢だったなぁ。疲れた~」
「ん? 悪夢でも見たのか?」
「それがな、ラノベみたく異世界に行ったんだけどさ、モアイ像になっちまってんのよ、俺」
「何ソレ、ちょっとオモシロ設定?」
「挙げ句に、性格サイアクの女にこき使われるしさ」
女という一言にノブハルが食いつく。
「何? 女? 美少女だったり?」
「それは認める。胸以外は見た目完璧。だけど中身最悪の残念系」
「いーじゃねーか! 俺好きよ? 残念系美少女」
「俺はないわー。俺は王道のアイリさん派だわ」
「ちょ、他にも居んの? まさかハーレム系か!?」
「んー、まあ、二人と結婚してたし?」
「マジか! なんて羨ましい夢見てんだよオマエ!」
肩に思い切りの蹴り入れられた。ガァンと鉄板蹴ったような音が響く。
「で、アイリってうちの学校のアイドルと同じ名前だけど、どーなのその辺?」
「あ、似てる似てる」
つか、うり二つだわ。
「死ね!!」
ノブハルの蹴り二発目。
「うっせえ!」
すくい上げるように軽くはり倒す。ノブハルがはじけ飛び黒板に激突、トラックに突っ込まれたかのようにめり込んだ。
うそぉっ!?
「うおっ! わりいノブハル!」
「はっはっは、オマエいい加減力加減覚えろよー?」
にこやかに言われて反省。そういや攻撃力9999だったわ。
……って、攻撃力? あれ?
「あ、あの、ケンタさん」
おずおずとした声。さすが我が校一の美少女アイリさん、声もカワイイっ、俺を見上げる制服姿も眩しいねっ。
……ん、制服姿『も』?
あー、何かイヤ~な予感。
「そろそろ、討伐に行かないと……。大結界が消滅してモンスターの被害が凄く増えてますから、今日もあちこちからの討伐要請で予定が詰まってますし」
遠慮がちに促す、ウエディング姿のアイリさん。とっても申し訳なさそう。
あー、うん、そういうことねー。
オチ分かったかも。うん。
唐突に、教室の天井一面にエリカの顔出現。
「ほら、さっさと起きなさい」
「だよねーーー!」
「目が覚めましたか?」
「目覚まし凝りすぎだろ!」
夢で学校のシチュエーション作り込みすぎ! 何より、尺ってものを考えろよ!
「長いわっ!」
「あなたの精神的フォローも兼ねたつもりなのですが」
「なってねーよ!!」
教室でモアイ像って、シュールすぎるわ!
「ふむ。ではもっとシンプルにしましょう。さあ、今日の討伐に行きますよ。準備はアイリが済ませてます」
さらっと話を流されたが、確かに準備は出来てるっぽい。
昨日泥の中に突っ込んだのに、体はキレイに磨かれている。なんか、顔が映りそうなぐらいにピカピカだ。
「ん? アイリさんは?」
「働いてますよ?」
俺の声と合わせるように扉が開いて、トレイを持ったアイリさんが入ってきた。
「あ、ケンタさん起きられました? おはようございます」
俺の前まで来て軽く頭を下げるアイリさん。うーん、メイド服姿もカワイイっ!
「エリカ様、お部屋のお掃除と本棚の整頓、服と魔道具のお片づけ、魔法薬の材料の仕分け、魔導書の写本、インクと紙の補充、ろうそくの交換終わりました。それと、朝食です」
「ありがと。あら、お茶のいい香り。淹れ方上手ね」
「ありがとうございます」
「って、何こき使ってんだよ!」
エリカへのツッコミに、アイリさんが慌てだす。
「い、いえケンタさん、お給金はちゃんといただいてますし……」
でも、さっきの話だとエリカのやるべきことじゃね?
まるでエリカ専属のメイドのよーな気が……。
「さて、そろったところでさっさと行きますよ。もうずいぶん尺を使ってますから、巻いていきましょう」
主にオマエの仕込んだ夢のせいだけどな!?
エリカがさくっとややこしい魔法陣を描いて「テレポート」と一言、周りの風景が一瞬でだだっ広い野原に変わった。
っと、訂正。戦場だっ!?。
「うおっ、いきなり!?」
最前線ど真ん中かよっ!
「巻いてと言いましたでしょう?」
「巻きすぎだろっ!」
「さっさとお願いします」
俺とエリカの応酬の傍ら、「おお、エリカ様だ!」「助かった!」と歓声が上がる。後ろを振り返ると低い壁の向こうに町。相手は、陸にコボルトの団体様、それと空に小型のワイバーンの団体様っと。
陸はいいとして、空は困るなぁ。弓兵さんたち牽制にしかならんみたいだし。
「エリカ、空のはまかせ……って、オイ!」
魔法でシールド張って休んでやがる!
「手伝えやこの野郎!」
「アイリを守らないといけませんので。ほら、来てますよ?」
エリカの言うとおり、コボルトが俺に群がる。
が、特にどうもしない。
コボルトの攻撃力程度じゃあ、ダメージ受けないし。
「あー、もう、うっとうしいなあ」
無造作に手で払う。
ゴォォォウッ!
「ギャン!」
群がってるコボルト+手前のコボルト+その足下の地面がまとめて吹っ飛ぶ。
唖然とする兵士の皆さん&コボルトの団体様。
「あ、危ないんで皆さん下がってくださいねー」
「は、はいっ! 全員退却!」
兵士の皆さんが下がって、前線はコボルト団体VS俺。
さて、ビビって逃げられる前に片すか。
「ほほほほほっ!」
腰を落として前へ正拳を乱発。
ドゴゴゴゴゴォッ!!
「ギャォォオン!?」
拳圧だけで地面ごと盛大に吹き飛ぶ団体様。
はい、終了っと。この辺りの地面までえぐれちゃったけど、まあいいでしょ。
後は空の……あ、しまった、警戒されちまった。
さっきまでよりも上空で、離れて旋回してやがる。
「先に打ち落としておけばいいのに」
エリカが茶を飲みながら呆れた声を出す。
「うっせ! つか、手伝えってんだろオマエ!」
「世界を救ったクエストボーナスを、全部貴方の寿命を戻すのに使ったんです。本来ならそれで大結界を修復するはずだったんですよ? その代わりなんですから、がんばって働いてください」
「元々はオマエのせいだけどな!?」
ハンバーガーで世界滅ぼしかけといて何ぬかす!
「つか、空は届かねぇって言ってんだろ!」
サブシステムが消滅しちまったから、魔法が使えねえの知ってんだろーがよ。使えるのは移動用の浮遊魔法(飛行魔法でなくって、地表を滑るように飛べるだけ)とスキャンだけだ!
「届きますよ?」
「は?」
あれ? 魔法使えるの?
「空のワイバーンをよーく見て、『ロック』と言ってください」
「へ? んーーー、ロック……って、おおっ?」
俺の視界にマーカーが点灯、ワイバーン全部に重なってる。
「で、『ファイア』と」
「お、おう? ファイアぁあおう!?」
言ったとたんに後頭部(気分的には背中)がバカっとっ開いて、叩くような衝撃が連続で響いた。
ドドドドドドドドォッ!!
細長い筒が火を噴きながら発進、ワイバーンを追跡して激突、んで大爆発。
ドゴゴゴゴゴォォォォン!!!
…………。
「追尾型の高性能マジックアローです」
「ミサイルじゃねーか!!」
どう見てもミサイルじゃん! 地対空ミサイルのスティンガーじゃん!
「錬金魔法で生成してますから、魔法ですよ」
「ちげーよ!!」
この異世界(=俺の世界ね)覗き魔がっ!
……つか、ちょっと待て。
「おい、錬金魔法っつったケド、何を元にミサイル錬成してんだ?」
「貴方の体ですよ?」
「はあっ!?」
「文字通り、骨身を削っての労働。勤労は美徳ですよね」
「文字通り過ぎるわ!!」
ブラック企業かよ!?
いかん、ブラック過ぎる。この上司?の言うとおりにしてたら、死んじまう。マジで。
……ここは一つ、対等な立場にならねば。
脅してでも。
瞬間移動並に突進、アイリさんへ手を伸ばす。
バチッ!
「きゃあっ!?」
エリカの張ったシールドに弾かれた。戸惑うアイリさん。
「……ふっ。アイリを手に、私と距離をとって死の呪いで脅すつもりですね?」
「ちっ!」
「そのまま離れれば、アイリまで死んでしまいますものね? 紳士であれば、そんな非道なこと出来ませんものねえ?」
「くっ! この外道がぁっ!」
ホントに大神官かオマエは? 完璧悪党ヅラじゃねーかよ!
「それにしても、飼い犬に手を噛まれるとはこのことですねえ」
「……んだとコラ」
飼い犬とぬかしたか、オイ。
「躾直しが必要かしら?」
「上等じゃねーか」
あったまきた。シールドぶち破る程度には本気だしてやるよコラ。
不穏な空気に、アイリさんが慌て出す。
「あ、あの? お二人とも?」
「飼い主への礼儀を叩き込んであげましょう」
「そっくり返してやるよ」
アイリさんそっちのけでにらみ合う。
先手っ!
「おらあっ!」
ズガァッ!!
気持ち強めの拳圧……だったけど、シールドがギリ破れただけかっ!
「ふん。食らいなさい、裁きの光(Judgment ray)!!」
カッ!
俺に落ちる光の柱、つか熱っ! あっつーーー!!
「ああ熱ゃーーーっ!?」
「ふふふ、対魔属性用の神聖魔法、最上級です。効くでしょう? 何しろ魔神王討伐用の最高位階魔法ですからね」
「初っぱなから何撃ってんの!?」
殺す気か!?
「一体しか狙えず、私でも3回も使えばMPがカラになる大魔法ですが、効果は抜群でしょう?」
確かに効く……ケド、HPの1/5ほど削られただけだ。残り2発なら問題ない!
「裁きの光(Judgment ray)×3!!!」
「あ熱ゃ熱ゃ熱ゃゃゃーーーっ!?」
続けざまに3回光が降臨、HPがガリガリ削られるぅっ!
「って、何で3連撃ってんだよ!!」
「貴方のMPを使ってますからね」
「はあ?」
慌ててMPチェック、確かに減ってる! 何で!?
「どゆことっ!?」
「貴方と結婚させられたことで、貴方のMPを流用するアビリティが追加されたんですよ」
「んだとお!?」
サブシステムの置きみやげ(一回使ったから使えるようになった)スキャン実行っ。
名前:エリカ・リリーディアナ=グランヴィル
(中略)
アビリティ
・精霊王の盟約(全状態異常激減)
・四神獣の加護(防御力大幅上昇)
・天空神の祝福(幸運値大幅補正)
・世界樹の恵み(低速自動回復)
New!・魔神王の愛人(魔神王のHPとMPを流用可)
…………。
「ですから、HPだって、即死しない限りは貴方から吸収できるんです」
ドヤ顔のエリカ。
…………ぶふっ。
「どうです? いかに無駄な足掻きをしているのか、分かりましたか?」
あ、あかん、我慢できんっ!
「ぶははははははははははははっ!!!」
「な、何がおかしいんですっ!」
「だ、だってオマエ、愛人って! 愛人って俺の! わはははははっ!!」
「あ、アビリティ名は問題じゃないんですっ!」
「散々ドヤ顔しといて、実は愛人だって!? オマエが? 俺の? あ、愛じっひゃひゃひゃひゃっ!!」
顔真っ赤じゃん? プライド高そうなコイツにゃあ屈辱的なんだろーなっ、人を飼い犬呼ばわりしといて、その愛人とはっ。何か気が晴れるわーwww
「……殺す」
「ひゃ……っ?」
エリカの顔が冷たーーーくなった。
「……おい?」
「……ころす」
あ、目がマジだ。光がないわ。
「エ、エリカ様?」
様子に気づいたアイリさんが、おずおずと話しかける。
リアクションなっしんぐ。
マズい、ガチで殺りにくる気だっ!?
慌てて構える俺。
殺らなきゃ殺られるっ!
「お、お二人とも落ち着いてっ! 落ち着いて下さい!」
殺気がぶつかり合う中のアイリさんの懇願。
聞こえねーっすっ。
「……コロス(#゜Д゜)凸」
「……やってみろやゴルァ(#゜Д゜)凸」
空気がビリビリするっ!
「Judgmentーーー」
「おぉーーー」
「やめてーーーーーー!!!!!!」
アイリさん絶叫!
「ra……え、あら?」
「ああががっ?」
光の柱がプスンって不発、俺は……うっ動けねえっ!?
「お二人ともケンカはやめて下さい!!!」
「「は、はいっ」」
アイリさんの剣幕にビビる俺とエリカ。
しっかし、何で金縛りに……?
あ、もしかして。
こっそりアイリさんをスキャン。
名前:アイリ・キャロル
種族:人間
(中略)
アビリティ
New!・魔神王の正妻
(魔神王のHPとMPの上位管理権限)
(魔神王の全ステータスへの強制干渉)
(魔神王の全ステータスの完全流用可)
(魔神王のアビリティの無効化)
(魔神王からの攻撃の完全無効化)
(同種の下位アビリティ所有者への限定的干渉)
正妻強ぇぇぇぇぇ!?∑(゜□゜;)
……つか、俺、アビリティで尻に敷かれるってこと?
ケッコン……(゜∇゜;)
読んでいただき、ありがとうございます!(^人^)
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