1.食は世界を滅ぼす
※本文の体裁を修正しました(2030.2.9)
「よくぞ召喚に応じてくれました。どうかこの世界をお救いください」
第一声はテンプレなセリフだった。
いつも通りに学校へ向かってて、近道に裏道を突っ切ってるところまでは覚えてるんだけど……。
あ、大通りに出る直前に、頭を殴られたような衝撃が?
で、今、目の前には美少女がいて、俺に話しかけている。
これが、文句のつけようのない美少女だった。金髪に形のいい碧眼、透き通った肌に小さな唇。ゲームとかで見る神官服っぽいのもよく似合ってて、“二次元から飛び出た美少女”とか言われる感じの。背も小さくてかわいいなぁ、俺の1/4ぐらい……
って、ちょっと待て! 小さ過ぎね!?
「今、この世界は危機に瀕しています」
「あー、ちょっと待って、頭整理するから……。召喚とか世界を救うとか言ってたけど、もしかして、異世界から召喚、とかそういう意味?」
「えっと、はい、そうです」
遮った俺に、美少女が見上げながらうなずく。
「マジで?」
「マジです」
思わず天を仰いだ俺の口から「うっそ、マジで異世界モノ? ラノベじゃんソレ……」と、ため息が漏れた。
そのとき、下から小さなつぶやき声が。
「あら、理解が早いわね」
ん? 今、何て言った?
目線を戻す。
「あの? 今?」
「いえ、何でもありません。貴方のお力で、この世界を救っていただきたいのです」
「いや、力って、俺普通の学生で……」
「大丈夫です。召喚の際に、変換したポイントでレベルMAXにしてありますから」
「はい?」
妙に馴染みのある言い方に面食らう。
何か、表現がいきなりぶっちゃけモードになってないか?
「何なら、ステータスを確認されてはいかがですか?」
「ステータス? うおっ!?」
意識しただけで、目の前にスクリーンが出た。
名前:小日向 建太
種族:ゴーレム
職業:魔法使い Lv99
階級:魔神王
HP:20000
MP:20000
攻撃力:9999
防御力:9999
素早さ:5892
賢さ : 12
運 :-9999
アビリティ
・魔神王の威光
(一部ステータスの大幅上昇)
(神聖属性以外の魔法ダメージ軽減)
(一定レベル以下の魔属性攻撃無効化)
(全状態異常無効化)
(高速自動回復)
……
「って、ゴーレムかよっ!?」
真っ先に目に入った項目に、思わずツッコミが出てしまった。
「ええ、カッコいいですよ。見ますか?」
美少女がかざした手の辺りに魔法陣が現れ、そこからデカい鏡が現れる。
慌てて自分の体を確認。
アルミっぽい質感の素材。
やたらと縦に長い顔。うん、長い。
ちょっとしゃくり気味の顎、の下に続く胸元。
そしてその下は……無い。
以上。
あー、石像で見たことあるわー、コレ。写真でだけど、有名だもんなぁ。イースター島だっけ?
「って、モアイじゃねーか!!」
思わずツッコミその2、って手はあった! 金属性のムチの先にオモチャみたいな手だけどなっ。
「ええ。美しい造形でしょう? そぎ落とされたスタイル、哲学的な表情。並んで空を見上げる図なんか、神秘的な雰囲気すら感じます……」
うっとりと語る美少女。つかゴメン、その感性にはついていけねーわ、俺。
って、ちょっと待てや、まるで見たことあるみたいな言い方じゃないか?
「いやいや、ちょっと待て、ちょーーーっと待て。……っと、アレだ、まず、これのどこがゴーレムなんだよ?」
「ゴーレムじゃないですか? この世界で最も硬いアダマンタイト製ですよ? 熱にも冷気にも魔法にも耐性が高いので、戦闘では無双間違いなしです。良かったですね?」
「良くねぇよ!」
にっこり笑われても、こっちは笑えねえっ。
「あら、お気に召しませんでしたか?」
「いや、そうじゃなくて、モアイで無双してもさあ……。こう、凝った鎧みたいな感じの方がカッコいいじゃん?」
美少女が目をそらす。
小さく舌打ち。
「……ちっ、この中二が……」
んん? 今、何つった?
イヤな予感。
「それにさ、この“魔法使い”で“魔神王”って何? 勇者とかじゃないの? フツー」
「魔法使いでないと困りますし、魔神王が一番ステータス高くて、やっと必要MP量に届くんですよ。何しろ魔族の頂点ですから」
「あれ? 魔族って、敵じゃないの?」
「敵ですよ?」
「ダメじゃねーか!」
美少女が、やれやれといった風に肩をすくめる。
「仕方ないじゃないですか。“英雄(伝説級)”だと10人必要になっちゃうんですから」
「だからって、フツー敵の親玉設定にするかよ!? それに、賢さ12って何!? つか、運-9999って何だよ!?」
「賢さは必要ありませんので、元のままで。運は、まあ、魔神王ですから? 祝福とは真逆ですからねぇ」
面倒くさそうに答えられた。
その上、鼻で笑われる。
「賢さ、低いんですねぇ」
「余計なお世話だよぉぉぉっ!」
思わず手で顔を覆ってしまった。
覆いきれないけどなっ!
「どうせなら賢さも上げておけよ!」
「もっとポイント変換しても良かったんですか?」
含みのある言い方に、ちょっとたじろぐ。
「それ、どういう意味だよ? そもそも、ポイント変換って、何を変換したんだ?」
「貴方の寿命ですよ?」
「はあああっ!?」
「HPとMPは10につき1日、他は1につき1日です。まあ、ざっと80年分でしょうか?」
「おおおぉぉぉぉぉぉいっ!?」
思わず絶叫。
「残った分では、焼け石に水でしょう? 上げても」
「ちょ、おま、何勝手にしてくれちゃってるワケっ!?」
俺と彼女の温度差、ヒドいっ。
「どうでもいいじゃないですか、失敗すればこの場で死ぬんですし」
明らかなあきれ顔で、えらく物騒なセリフが出てきた。
「……はい?」
そういえば、何をするのか聞いてなかった。
この世界を救うって、いったい何をすりゃいいんだ?
LvMAXの魔法使いで、魔神王でなきゃ倒せない相手って、めっちゃヤバいってことじゃね?
「何? 相手ってそんな強いワケ?」
「相手? 相手なんていませんよ?」
「は? 世界の危機とか言ってたじゃん、ヤバいヤツがいるんじゃねーの?」
俺の疑問に、美少女が居住まいを改める。
「では、話を戻しましょう。今、この世界は危機に瀕しています。ある召喚魔法の失敗で、この世界に別の世界が衝突しようとしているのです」
「別の世界が衝突?」
「はい。正確には、世界と世界が重なる。無理に重なった世界は消滅するでしょう」
「ヤバいじゃん! 失敗って、何を喚ぼうとしたんだよ!?」
どんなスゴいのを喚ぼうとしたんだ? 失敗して世界が召喚されるほどって?
美少女が顔をプイッと背けた。
「……はんばーがー……」
んんん? 何つった今? 小さくて聞きにくかったが……。
「……はい?」
「だから、はんばーがーです」
「はぁぁぁ!?」
「しょうがないじゃないですか、食べてみたかったんですから。万象廻天の聖鏡で覗いてたら、『まく○なるど』でみんな美味しそうに食べてるんだもの」
開き直りやがった。
「んじゃあ何か!? そのナントカの鏡とかで異世界を覗いてて、マク○ナルドのハンバーガー食いたくなったから召喚したと!?」
「そうですけど、何か?」
「何やってんのアンタぁぁぁっ!?」
ハンバーガーで世界滅亡すんのかよ!?
「大体、ハンバーガー程度の召喚で、何で別世界を喚んじまうケタの失敗になるんだよ!?」
「いや、瞬間、他に色々なものも呼べないかなーと思ってしまって……」
「色々なもの?」
「はい。色々な、別世界のもの。全部」
「それで世界そのものまで広がったのかよ!」
美少女がちらりとこちらを見る。
(ノ≧ω≦)⌒☆テヘペロ
カワイイけど可愛くねえっ!!
「ですので、貴方に改めてこの世界“だけ”を召喚してほしいんです。そうすれば世界が安定し、衝突が回避されます」
「ってか、ソレ自分でやればよくね?」
間違って別世界を召喚できるぐらいなんだからさぁ。
「MP使い切ってしまったので」
「ん? じゃあどうやって俺を召喚したんだよ?」
「王国の秘宝、万天聖護の宝玉を代償にしました」
「秘宝?」
「魔族から王国を護る大結界の源ですね」
「おぉぉぉいっ!?」
何使っちゃってんのアンタ?
「人間世界を護る秘宝中の秘宝ですから、代償には十分。貴方のステータス付与もその恩恵なんですよ?」
「違うだろ!」
ドヤ顔にツッコミ入れてから、はたと気づいた。
「じゃなくって、どうせ代償にするなら、ソレでアンタがもう一度召喚魔法使えば良かったんじゃね?」
「……あ。」
「気づいてなかったのかよ!」
また顔を背ける美少女。ちらりとこっちを見る。
(ノ≧ω≦)⌒☆テヘペロ
だから、超かわいいけど可愛くねえっての!!
わざとらしい咳払いが一つ。
「とにかく、そんなワケですから後には引けません」
「世界が消滅?」
「はい。完全に世界が重なってしまうと、分子レベルで重複、同じ分子の場合は疑似的超々高圧状態により核融合反応が起きて、膨大なエネルギーが発生してしまいます。そのエネルギーを元に別の核融合が連鎖的に誘発、際限なく拡大して、世界は核の炎に包まれます」
な、何か難しいこと言ってる。っていうか、コレ俺の世界の科学の話じゃないか?
「く、詳しいね?」
「だてに万象廻天の聖鏡で調べていたわけではありません」
いや、ドヤ顔してるけど、調査じゃなくて覗きだからな? ソレ。
「でも、俺、魔法なんて使えんの? ホントに」
「大丈夫ですよ、魔法陣は私が構築済みですから。ほら」
彼女が手を掲げると、言ったとおり魔法陣が現れた。
俺を中心に、足下だけじゃない、空中にも幾つも浮かんでいる。9、いや10個、それ以上か? 実際スゴい魔法使いなわけだ、この子。
……いろいろ残念だけど。
「ですから、貴方は最後の一言を言うだけでいいんです」
「最後の一言?」
バ○ス的な感じか?
「はい。『カモーンщ(゜▽゜щ)』と」
「言えるかぁぁぁっ!」
いや、言えるよ? 言えるけど、そのノリと手つきはねーわ。
「もちょっと真面目にやれよ!」
「大真面目ですよ。貴方を召喚した副作用で、別世界のさらに別世界まで来ちゃってますから。それも、複数」
「何で悪化してんの!?」
また顔を背ける美少女。
あ、ヤな予感。
「……とにかく、誰でもいいから来てって思ってしまって……」
「思い過ぎだろ!!」
誰でもって、別世界まで人数(?)にカウントするなよ!
(ノ≧ω≦)⌒☆テヘペロ
もーええわ!!!
「えー、ですから、言ってもらわないと困るんです。反物質の世界でも重なってしまったら、宇宙、次元も壊れてしまうかも」
「宇宙の危機!?」
ハンバーガー一つで、被害どこまで広がるんだよ!?
「もう、時間もあまり残されていませんし。なるべくお早い決心を、お願いします」
静かに、丁寧にお辞儀をする美少女。
「えっと、あとどれくらいなの?」
彼女は頭を上げて、考える仕草になった。
「そうですねぇ、あと5秒、4、3、2」
「カッモーーーン!!!!!щ(゜Д゜#щ)」
世界は光に包まれた。
読んでいただき、ありがとうございます!
次の話も読んでいってやってくださいませm(_ _)m