表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

毛筆

 御剣香は、貴族の娘でありながらミステリー作家である。

その美貌と独自のセンスでミステリー嬢王と呼ばれている。

きっかけは、両親からもらった毛筆が使いたく小説を書き始めた

書かなくてもよい小説を書いて爆発的に売れた彼女のもとには、数々のファンレターが贈られる。

最近では、ファンレターを読むことにしか時間をつぶす手段がなかった。

その内容は、彼女の容姿についてや、純粋に面白かったなど、十人十色だ。

「郵便でーす」お手伝いさんが今届いた郵便物を持ってきた。

そのA4サイズの封筒には何枚も重なった原稿用紙が入っていた。


 拝啓、御剣香様。

私は、あなたの作品の虜になりました。

突然のお手紙失礼いたします。

私は、江戸の筆職人でございます。筆を作って生計を立てていました。

今から20年ほど前に、弟子入りをし、日々筆づくりに没頭しておりました。

筆職人に大事なことは動物の命をいただいているということを知ることなのです。

大切な命を奪っているのだから、一つ一つ大事に作らないといけない。

私が作る筆から、みんなにそう理解してほしいと、私の師匠は言いました。

私も動物を大切にする気持ちが、やがて筆を大切にする気持ちにつながる。

動物に対する愛情と感謝の気持ちを忘れずに筆作りに臨み続けないといけない。

その想いで筆を作っていました。

だが、もっと感情を愛情を込めて作ることは可能であると確信していた。

師匠が亡くなった後、私はその想いを現実に変えた。自分の髪を使った。

自分の髪を使い魂を込めて作った。髪はどんどん無くなった。

血が出るまで髪を毟り続けた。

そして、初めて自分が納得いく筆が完成した。

私はすぐに店頭に並べた。ある若い夫婦が買っていったのである。かなりの高額で。

その夫婦は貴族のようだ。自分の子供のプレゼントとして筆を購入していった。



御剣香は恐怖感を隠せなかった。彼女は、自分の机にある毛筆を見た。

昔から気になっていたのだ。先端に赤い部分があることを。



 御剣香様、ここまで読んでいただけたら感覚が優れているあなたはもうお気づきでしょう。

そうなのです、あなたが愛用している筆は私の体の一部なのです。

私はあなたに会いたくなってきました。一目でいいから、あなたが筆を使っている手を見つめていたい。

もし可能であるなら、あなたの部屋の窓から見える花瓶に黄色いハンカチを掛けておいてください。

私は、その黄色いハンカチを見たらあなたに会いに行きます。服装はスーツを着ていきます。もちろん

頭には帽子をかぶって。


ピンポーン「郵便でーす」


御剣香は気が動転してしまい、我を忘れ洗面上に駆け込み右手を強く洗い続けた。

無我夢中に手を洗っている彼女に召使が宅配便である封筒を渡した。

御剣香は恐る恐る封筒を手にした。震える手は封筒を掴んだ。

そこに書かれている文字はさっきまで見ていた文字と同じ字だ。

文章を読み壁にゆっくりもたれかけて倒れた。


 御剣香様、突然の長文のお手紙で失礼しました。私は、あなたが書いた小説が大好きです。

私も、真似て書いてみました。つまり、これは作り話なのです。もしこの手紙を読んでいただけて

私に興味を持っていただけたのであれば、今度の週末に私の誕生会があります。そこにあなたも来てほしいと思っております。場所は山奥になりますが、自分でいうのも恥ずかしいほど、素敵な別荘です。

住所を記載しておきますのでお待ちしております。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ