6.1 デシアーナ
私はデシアーナ、ブケパロス辺境伯領ラストムーロでメイドをしている。
メイドなはずだが経歴とスキルのせいで隊長代理という役職を押し付けられてしまった。
まあ今は大勢が遠征に行っているから仕方ない、戦場に送り込まれるよりはマシだろう。
私はスキルが強いといっても持続時間は短い、継戦能力が無いから戦場なんかに送られたら生きて帰れる気がしない。
「女神教から保護要請のあった人、凄くかわいかった、ヤバい!」
「何が、ヤバい、よ、リッジに告げ口しちゃうわよ」
「ダメ!それだけはダメ!絶対にダメ、あの人に嫌われたら私生きていけない」
ミリアは旦那……リッジッドにベタぼれのようだ、リッジッドの方も似たようなものだが。
こっちはもう25歳にもなるが独り身なので少しイラッとくるが、まあ自分と同じ顔が悲痛な表情をしていた頃よりは良い。
私も『この人となら結婚してもいい』と想った人はいたのだが私の事情を話した次の日には、
『怒らないで聞いてほしいんだけど、お父様がお前は長男なんだから石女と付き合っちゃ駄目だって言うんだ、ごめんね、別れてくれる?』
『大丈夫、大丈夫だよ!怒ったりなんかしないよ、仕方ないよね、長男だもんね、私こそごめんね、うん仕方ない残念だけど別れようか、残念だけど』
とか言われて振られてしまった。
石女とか傷付くからやめてほしい、好き好んでこんな体になったわけじゃない、上目遣いで申し訳なさそうに告げる顔があまりにもかわいかったからあっさりと許してしまったけども。
「冗談よ、しっかりと嫌われてきたんでしょ、告げ口なんてしないわよ」
「うん、あんなカワイイ子脅したりするのは心苦しかったけどね、頑張った、ほめておねーちゃん」
「はいはい、ガンバッタネーヨシヨシ」
ミリアは嫌われ役を買ってでてくれた、コンテナさんのスキル暴発で壊れたのがミリアの家だったので都合が良かった。
これで後は私がフォローをすれば好意を持たれやすいだろう、ミリアと違って胸が大きいというのも武器になるはずだ、おっさんにジロジロ見られるのは気持ち悪いが、カワイイ子にならむしろ見られたい、押し付けて焦ってる顔とか観察したい。
☆ ☆ ☆
トレイに食事を載せてコンテナさんの部屋に運ぶ、給仕はローリアの仕事だが代わってもらった。
「初めまして、わたくしデシアーナと申します、お食事をお持ちしました」
「デシアーナさん?ミリアーナさんじゃなくて?」
「はい、ミリアーナは私の妹になります」
「胸はスキルの影響ですよ、私のは偽物なんかじゃないんですからね」
「あっ、はい」
うっわなにこの子、鼻ほっそ、おめめパッチリじゃん、肌しっろ、これはヤバい確かにヤバいとしか言いようがないわ、芸術品じゃん、どこで売ってるんだ、言い値で買うぞ、あっ、胸見てる仕方ないよねーいいよいいよどんどん見てくれ、たまに減るけど見るだけなら減らない、そうだ偽物じゃないって念押しとかないと。
頭の中はうへへな感じになっていたが、メイド修行で表情を作る訓練は夢に見るほどやらされた、今もキリッとした顔の余裕ある大人の女性が彼の前に立っているはず。
「見ましたよミリアの家、散々自慢されていたのでスカッとしました」
「ええっ?」
あれは笑った、なんせ昨日まで民家だったのが一夜にしてコンテナになっているんだから、ミリアには悪いが話のタネになってもらう。
「コンテナさんも酷い目にあったんじゃないですか?手も口も乱暴者の妹でごめんなさいね」
「いや、まあ、ちょっと」
「それよりコンテナさんって僕のことですか?」
「名前思い出せないんですよね? ……すでにみんなコンテナさんと呼んでるようですが嫌でしたか?」
「嫌じゃ……ないですよ」
コンテナさん呼びは嫌なのかな? 流れ人さんと呼ぶよりは親しみやすいと思ったのだが、コンちゃんと呼ぶべきだったか?
もう頭の中ではコンちゃんと呼ぶことは決定しているが、うんカワイイちょっと困ったように眉を垂れた表情とか似合うなーもう、絵画にしてベッド横の壁に飾っときたい、寝る前と寝起きにキスしたい。
「ちょっと、家のドアが中から閉めれないんですけどどうなってるんですか!」
ミリアが慌てた様子で部屋に入ってきた、いいところだったのに・・・