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20 不遇なスキルのお話し

「あら懐かしい、三匹の子豚ですね」


 デシアーナさんがテーブルの上に置きっぱなしになった本を手に取る。

 昨夜、この世界の紙がどのようなものか知りたくて書棚から一冊抜き取ったのだけれど、眠気に負けて横着してしまった。


「こちらの世界にも三匹の子豚ってあるんですね」


 豚がいるというのは初耳だが、馬もいたし結構同じような動物が存在していそうだ。

 猫はほぼ人間だったけど。


「土地によって話の内容に少し変化はありますが、どこにでもあるんじゃないでしょうか」


 記憶を探ると、転移前の世界でも残酷な内容から、みんな生き残るもの、登場キャラクターに変更が加えられたものもあった。


 デシアーナさんが本をテーブルに置くと一ページ目を開く。


 絵本なのだが絵は小さく、その分文字が多めになっている。

 豚の四人家族はメルヘンチックに描かれており、一目で子供が喜びそうだとの感想を抱く。


 オオカミの背中にはキュウリが生えているが、この世界では体から野菜を生やした魔物がいるそうだから、実物のオオカミにも生えているのだろう。



★精肉場からほど近い畜舎に豚の四人家族が暮らしていました。

 空が紅に染まる景色を窓越しに眺め、目に涙をにじませたお母さん豚のジョセフィーヌが、息子達に向かって言いました。


『あなたたちも早く自分の家を建てないとお父さんのように肉にされてしまうわ、犠牲になるのは私だけで十分よ、あなたたちはお逃げなさい』


 三匹の子豚はちょうど一年前の惨劇を思い出し震えあがりました。


 長男子豚のシュナイダーは樹木魔法スキルを持っていたので、森から木を伐り出して、木の家を建てました。


 次男子豚のルノーは鉱石魔法スキルを持っていたので、山から石を削り出して、石の家を建てました。


 三男子豚のオチキスはコンテナのスキルしか持っていなかったので、精肉場で住み込みで働くことになりました。★



「三番目の子豚にとてつもなく不穏な空気が漂っているんですが……」

「三匹の子豚の物語はどれもハッピーエンドなのできっと大丈夫ですよ」


「スキルがコンテナですか」

「気になりますか? コンテナは使えないスキルの代名詞なので、こういったお話では登場する事が多いですね」


 ローリアさんが言ってたコンテナに親しみがあるというのは、童話などに登場する事が多いからなのだろう。

 お世辞で言ってたわけじゃ無かったのか。


「絵はほのぼのしてるだけなのに文章はドラマチックで、アンバランスですね」

「絵と文章の作者が違うようです」


 最終ページをチラリと見たデシアーナさんが答えてくれる。

 違うにしてもギャップが酷い、どちらかに合わせればいいのに。


「わざわざ自分から精肉場に行かなくても……」

「童話ですから細かい事は気にしてはいけませんよ」



★家ができたので、シュナイダーとルノーは遊び、オチキスは体重を計っていました。

 その様子を心に傷のあるオオカミが遠くから見ていました。


『楽しそうにしやがって、気に食わねえ』


 オオカミが子豚達の家へ忍び寄りました。 ★



「絵はかわいいのに、文章は不穏すぎませんかね……」

「高い本ですから子供と大人の両方が楽しめるようにしているのでしょう」


「本や紙って高価なんですか?」

「種類によります、この本は羊皮紙を使っているので高価なものですね、スキルを使って作った紙は魔力が抜けてしまって保存性に難点がありますが安上がりです、反対に高価な羊皮紙は保存性に優れますし破れたりしても修復が容易なんです」


 作ってるとこ見てみたい、余裕ができたら工場見学的な事をお願いしてみようか?


「へえ、紙を作れるスキルもあるんですね」

「何種類かあります、兵士の中にも持っている者はいるので見張り等の合間に作ってもらっていますよ」


「兵士が紙を作ったりするんですか?」

「兵士は何でもしますよ、とくにラストムーロの住民はほとんどが兵士とその家族ですから、兵士が全く関わらない仕事の方が少ないぐらいです」


 戦いが身近な土地だから仕方ないのだろうが大変そうだと他人事のように思ったが、そういや自分も兵士になったんだと思い直す。



★オオカミがシュナイダーの木の家に近付くと。


『燃えろ、燃えろ、みんな燃えてしまええーー』


 オオカミの火炎魔法スキルによって木の家はボーボーと燃えてしまいました。

『うわあ、熱いよー』


 命からがら木の家から逃げ出したシュナイダーはルノーが建てた石の家に逃げ込みました。

 オオカミはシュナイダーを追い掛けてきました。


 オオカミがルノーの石の家に近付くと。


『燃えろ、燃えろ、みんな燃えてしまええーー』


 オオカミの火炎魔法スキルによって石の家はしかし燃える事はありません。


『ふーはははは、石の家は燃えないぞー』


 ならばとオオカミは燃え残った木材を持ってくると、石の家の周りに積み上げ燃やしました。


『燻し出してやるぞ、小汚い豚どもめ』

『うわあ、煙たいよー』


 命からがら石の家から逃げ出したシュナイダーとルノーは仕方なく精肉場に逃げ込みました。★



「ダメーそこに逃げ込んじゃダメ―」

「精肉場にはナタとか武器になるものがありますし、悪くない判断ですよ」


「豚ってナタ扱えるんですか?」

「オークやオークに近い豚は扱えるでしょうね」


「この絵本の豚は?」

「手の形状から判断すると無理ですね」


「……」

「……ごほん、さあ続きを読みましょう」



★オチキスはシュナイダーとルノーを匿うと、精肉場の入り口にスキルで出したコンテナで蓋をしました。


『燃えろ、燃えろ、みんな燃えてしまええーー』


 オオカミは火炎魔法スキルによって火を放ちましたが、精肉場は耐火処理されているので燃える事はありません。


『うわあ、熱いよー』


 コンテナへの熱はオチキスに伝わり、オチキスは苦しみます。

 木材も無くなってしまっていたのでオオカミはコンテナを殴ったり蹴ったりしますが、コンテナは壊れません、オチキスはボロボロです。


 オオカミはどうやっても壊れないコンテナに業を煮やし、コンテナの上に飛び乗ると踏みつけ始めました。


『用意は出来た! やれ、オチキス!』

『……わ、わかったよ……にいさ……ぐふっ……』


 オチキスがコンテナを回収するとオオカミは、コンテナの下に樹木魔法と鉱石魔法で作られた落とし穴に落ちて、身動きが出来なくなったオオカミは捕らえられました。


 子豚の兄弟はオオカミを精肉場に引き渡し、代わりにお母さん豚のジョセフィーヌは解放され二匹の子豚とともに幸せに暮らしました。★



「ぐふって、オチキス力尽きてませんか? 最後、二匹の子豚って数減ってるし」


 理不尽だ、スキルコンテナ使いのオチキスにも救いを!


「悲しいですね」

「ハッピーエンドですか?」

「お母さん豚は解放されましたし、幸せに暮らしましたって書いてありますよ」


「オチキス含まれてませんよね?」

「悲しいですね、でも私が昔読んだものは三匹とも幸せになっていましたよ」


「教訓とかあるんでしょうか?」

「コンテナみたいな使えないスキルも使い方次第というお話ですね、同時に使えないスキルで無理はするなという意味もあるんじゃないでしょうか?」


「スキルのコンテナって普通はそんなに使えないものなんですか?」


「出したコンテナに石がぶつかっただけでも気絶するぐらい痛いみたいですよ、出したり消したりは自由にできますが中に物を入れた状態で消すと使用者の体の内側が重くなってしまうそうで、持ち運びするなら手で持った方がマシだと聞きました」


「それは使えないというより、使いたくないでしょうね」


 何だろう、ほぼ別物だけど同じ名称のスキルを持っているせいで自分が使えないと言われているような気分になってきた。


「コンテナさんが落ち込まないで下さい」


 俺の気持ちを察してかデシアーナさんが寄り添ってくれる。

 すぐに気分は良くなったが、心地良い状態を手放すのは勿体無いと思ったので落ち込んでる振りを続けてみた。


 その後、朝食を二人で食べたのだが調子に乗って何度も落ち込んだ振りをしていたら、


「コンテナさんが落ち込んでいたら私も悲しいですよ」


 って上目遣いで言われたのでやめた。

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