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16 ネコミミ母娘を助けたい

「猫ですか……困りましたね、おい人間の言葉は喋れるか?」

「みゃ~」


 バイワートさんが少し面倒だぐらいの様子でネコミミ幼女に質問したが、ネコミミ幼女から返って来たのは鳴き声だけ、どうやらまだ喋れなさそうだ。

 確認するということは種族として喋れないことは無いのだろう。


 猫人とかワーキャットじゃなくて猫か、俺が見た感じでは人間要素の方が多いのだけども、この世界に純粋な動物の猫が存在しないという可能性も考えられる。

 幼女の猫要素はネコミミ、シッポ、それに首根っこを掴まれても悲鳴を上げたり暴れることも無く大人しくしてるぐらい。


 服はボロく汚れていてあまり良い暮らしをしているようには見えない。

 身長はバイワートさんの膝ぐらいまでしかなく、朝に治療師のお爺さんと一緒に来た少女よりも一回り小さかった。


食べ物ぐらいだったら分けてあげたいと思ったが、猫がこの街でどういう扱いをされているのかも分からないのでしばらく様子を見てみよう。


「親は近くにいるか?」

「みゃ~」


 バイワートさんの質問にネコミミ幼女は、うなづきも否定もせずただ鳴くだけだ。

 言葉が理解できているかも怪しい。


「子猫が一匹だけということもないはずです、今は外壁もありませんから、兵士が交替する時にでも入り込んだのでしょう」


 デシアーナさんが少し困ったように語る。

 今は外壁が無いということは昔はあったのだろうか? 初めてこの街に入った時は木の柵が張り巡らされていた。


 市民登録をせず無断で街の外から入って来たというのなら魔法障壁に阻まれることは無かったのだろうか?

 気になったが今はどうでも良いことだ、また今度聞いてみよう。


「一旦離してみましょうか、逃げた先には親兄弟か仲間がいるでしょう、ヘレンはスキルを使って追い掛けてくれ」


「分かりました……スプリント」


 御者の女性の方……ヘレンさんの足が淡く光る、スキルを使ったのだろう。


 全員で倉庫から出てバイワートさんがネコミミ幼女を開放すると、俺が知っている動物の猫が全力疾走するような勢いで走り出す。

 ヘレンさんも負けじと追いかけていき、あっと言う間に見えなくなってしまった。


「うおっ! 早っ!」


 思わず驚嘆の声が出てしまい、少し恥ずかしい、周りの人の反応を見ようとしたらデシアーナさんと目が合いニッコリと微笑まれてしまった、凄く恥ずかしい。


 数分程度すると、ヘレンさんが帰ってきたが表情が暗い。


「近くに母親がいました、ご案内します」


 ヘレンさんについて行くと、そこにはネコミミとシッポが生えたガリガリに痩せた大人の女性が建物の壁を背にして座り込んでいた。

 ネコミミ幼女が鳴きながら女性の口にじゃが芋を軽く押し付けているが反応が薄い。

 早く治療を受けさせないと危ないんじゃないだろうか?


「早く病院に連れて行ってあげましょう」


「病院? 治療院ですか、コンテナさんこいつらと同じような境遇の猫は沢山いますキリがないですよ」


 バイワートさんが諭すように言った、口ぶりから察するに見捨てるのが普通なのだろうか。

 それでも俺は助けたいと思っている、それがエゴであっても、目の前で危機に瀕している彼女達を見捨てるのは自分を見捨てることと同じような気がする。


 同じような境遇の人や猫がいたとして、見えていないところまで助けたいとは思わない……が、見えている者を見捨てるのは苦しい。

 俺が本当に助けたいのは彼女達ではなく、自分の心なのだろう。


「でも、放っておけば死んでしまいますよね……せめて治療だけでも、費用は僕が払いますから」


「分かりました、治療院へ連れていきましょうか」

「ヘレン、スコット、馬車を移動させてくれ」


 俺のわがままをデシアーナさんが了承してくれた。

 呆れられただろうか? 表情からは読み取れない。

 治療費はどれぐらいかかるか分からないが、金貨が3枚残っているし足りるだろう、使うあても服ぐらいしか無いのだから構わない。


 バイワートさんもそれ以上の異論は無いようで御者の二人に指示を出すと、二人は元来た通りを走っていった。


 御者の二人が移動させてきた馬車を見ると車体の飾りがイルミネーションのように光っており、馬の胸元の飾りからも前方に光りを発している。


「あなた達を治療院に連れていきます、名前は言えますか?」

「……私はシア……娘はリカレ……」


 倒れていたネコミミの女性は声はかすれているものの言葉を喋れたので少し話を聞いたが、幼女の母親で間違いないようで、治療を受けさせる話をしたらすんなりと受け入れてくれた。


 体や服の汚れが酷かったので、この世界で洗浄剤として使われているスライム粉をふりかけ汚れを中和する、俺の部屋にあるものとは反応が違ったが臭いは消えていた。


 シアさんを馬車に乗せようとしたら、リカレがシアさんをかばうように暴れたがシアさんが頭を撫でると大人しくなった、微笑ましい。


 馬車に積んであった水と携帯食を少し食べてもらったが、喉を傷めているのか食べ辛そうだったので、デシアーナさんから銅貨を分けてもらい錬金コンテナで喉飴を作り、飲み込まないように注意して食べてもらう。


 念の為バイワートさんに鑑定をしてもらったが、この世界の猫種は人間と同じものを食べても問題はないようだ。


 みかん味は駄目だったがミルク味は気に入ったようで僅かにだが笑顔になったように思う。

 俺も食べたが美味しい、味覚障害はあるものの甘味は他の味覚に比べて感じやすいようだ。


 デシアーナさんやバイワートさんにも欲しいと言われて、どうぞと差し出したらみかん味もミルク味も好評で、バイワートさんが持っていた銅貨も渡されて追加で作ることになった。


「これは美味い、これほど甘い物なんて久しぶりだ」


「食糧不足のせいですか? 遠征が始まる前も甘い物は少なかったんでしょうか?」


「甘いものは優先して軍需物資として持っていきますからね、体力や魔力の回復が早まると言われているので当然なのですが」


 疑問を声にしたらデシアーナさんから答えが返って来た、好きな物を好きな時に食べるというのはこの世界では難しい事なのだろう、俺としてはスキルのお陰で実感が今一つ沸かないのだが。


 念のため錬金コンテナはネコミミ親子からは見えないように後ろを向いて使った、スキルを使用する時の声は聞かれたが普通のスキルコンテナは収納スキルだし、錬金術で作ったのではなく収納スキルから出したと思われたはずなので情報漏れについては大丈夫だろう。


「みゃ~……」

「喉に詰まらせたら危ないからこれをあげよう」

「みゃ」


 リカレが羨ましそうに見ていたから、マシュマロを作って上げたら気に入ったようで、馬車が治療院へ向かって走る中、笑顔で俺の方へ来るのと心配そうな顔でシアさんの方へ向かうのを繰り返すようになってほんわかした。


 お金よりもスキルよりも大切なものを俺は貰った。

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