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14 幸せな時間

「お昼ですし、お食事をご用意いたしますね」

「お手数おかけします」


 治療師が帰った後、デシアーナさんが食事を取りに部屋を出て行った。

 上司が……正確には上官か、部下の食事を取りにいくというのは変だが、メイド服が違和感を中和してくれている。


 上官がメイド服を着て給仕してくれている。

 なんだろう、この素敵なシチュエーションは、これで鉄格子がなければ最高なのに。


 美人なメイドさんに牢屋に閉じ込められ甲斐甲斐しく世話をされている。

 発想を変えたら鉄格子があるから良いと思えてきた、不思議だ。


 なんて想像していたらデシアーナさんがトレイに食事を載せて戻ってきた。


「お待たせしました、今回のお食事はコンテナさんのお陰で少し豪勢ですよ、私もこちらでお食事一緒にさせて下さいね」


「どうぞどうぞ、デシアーナさんと一緒に頂けるなら嬉しいです」


「こちらのパンは芋を練り込んだものなんですよ、焦げやすくなってしまうので作るのはコツがいるのですが、柔らかくて美味しいですよ」


 デシアーナさんが嬉しそうにパンの説明をした。

 昨日錬金術で生産した芋を使っているようだが、他にもふかし芋に、スープにも芋が入っている。

 朝も芋、芋、芋だった、献立が極端すぎじゃないだろうか?


「この料理ってローリアさんが作ってるんですか?」

「はい、男性のコックがいるんですが遠征に付き従っていて留守なのでローリアに頼んでいます」


 味覚障害のせいで食事は相変わらず味が薄く感じるので錬金術で自分の髪の毛を触媒にして作った塩で味を調整した。

 髪の毛が生命維持の働きをしているから無くさないようにと治療師に診断されたが、自然に抜ける分を使う程度なら大丈夫だろう。

 髪の毛を触媒にすると味覚障害があっても美味しいと感じられるぐらい味のいいものが出来上がるのだが、量はそれほど作れない、ならば調味料を作るのが効率的だ。


 治療師の診断を受けた事でスキル使用の解禁許可は出ている、ただし当分の間は内容の事前報告と、錬金術に関してはデシアーナさんかミリアーナさんのどちらかが一緒にいる時にのみにするよう言われたが、すでに一度暴走させてしまったし仕方ない。


 自分だけが美味しい塩を使うのも気持ち良くないのでデシアーナさんにも勧めてみよう。


「よかったらこの塩使ってみて下さい、普通のより美味しいですよ」


「ありがとうございます、お言葉に甘えていただきます・・・・・・これは凄く美味しいですね、少しだけしか入れていないのにこんなに美味しくなるなんて」


 スープに少量の塩を入れ、木製のスプーンで一口食べたデシアーナさんがニッコリと微笑む。


「塩って貴重だったりします?」


「貴重というほどではありませんね、優先的に送って貰えるように複数の同盟国と契約していますから。

塩は軍需物資にあたるので備蓄も多めに確保して切らさないようにしています、無くなってしまうと食糧以上にどうしようもなくなりますからね。

 ただこれほど美味しい塩というのは貴重どころでは無いでしょう、準備も無くこのまま市場に出してしまうと噂が広がって厄介な事になりかねません」


 後半は申し訳無さそうにデシアーナさんは語った、売らないでほしいといいたいのだろう。

 俺も今のところは売るつもりはないし、デシアーナさんの言い分はもっともだと思う。


「少量しか作れないので市場に売りたいとかは思っていませんよ」


「すみません、窮屈な思いをさせてしまって」


 昨日から何度目だろうか? デシアーナさんが申し訳無さそうな顔をすることが増えたように思う、そんなに気にする事は無いのに。


「デシアーナさんにならお分けしますので、欲しくなったらいつでも言って下さい、他にも僕が出来ることであれば出来る限りやらせていただきます」


 死なない程度になら多少の無理はしてもいいと思っている自分がいた、危険な事は絶対に避けようと思っていたのがもう遠い昔のように感じる。


 会話が止まり、少しの間見つめ合った後、デシアーナさんが自然な動作で身を乗り出し、軽く口づけをしてきた。

 唇が触れた瞬間、頭が真っ白になってしまい気付いた時には離れてしまっていて、感触を楽しむ余裕が無い事が残念だ。


「……コンテナさん、あなたの事が好きです」

「……僕もです、デシアーナさん、でも僕のどこを好きになってくれたんですか?」


 デシアーナさんからの好意にこちらからも好意を返す。

 だがまだ出会って4日した経っていないし、好かれているという自信が持てない。


「コンテナさんはとても優しい方ですし、その、お顔が好みです赤い瞳が素敵ですよ、コンテナさんは私のどこを好きになってくれたんですか?」


 頬を手で撫でられた、くすぐったい。

 お返しにこちらも頬を撫でると、デシアーナさんの口元が緩み目が細くなる。


 優しいかな? 味方を作りたいとか、敵を作りたくないとか、これまでを振り返ると打算だらけなので優しいと言われると罪悪感みたいなものを感じる。

 転移で変わってしまった自分の顔は、まだ自分のものとして受け入れきれていないが、それでも好みだと言われると嬉しさで心が沸き立つ。


 性格を褒められるより外面を褒められた方が嬉しい気持ちになったのは意外だった。


「デシアーナさんも優しいですよね、僕のお願いは聞いてくれますし、それに戦ってる時のデシアーナさんは格好良かったですよ」


 スキルを使いたいと言えば、渋りながらも許してくれる。

 デシアーナさんの立場からすると優しいというよりは甘いと言った方が正しいのかもしれないけど、今の自分にはその優しい甘さがとてもありがたい。


「胸以外も気に入ってもらえたようで良かったです」


 デシアーナさんが悪戯心が混じった笑顔で言った。

 はい、胸も大好きです、でもまだそれを口に出すのは照れ臭いです。


 ともあれ、昨日は成り行きであんな事になってしまったが、初めて好意を伝え合う事が出来た、順番が逆になってしまったが幸せな事に変わりはない。


 記憶を取り戻せるかどうかに関わらずこの世界で頑張ってみよう。

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