ロイヤルストレート屑の王子さまと乙女ゲーム主人公のハッピーエンドを目指します!
運命の日はドラマティックでございました。
私は殿下と彼女と対峙し、その冷たい視線を受けておりました。ちょうど先ほど、彼女のドレスに私がシャンパンを掛けたところを目撃されたところでした。
「このような嫌がらせをするなんて、ダイアナ…お前には失望したよ」
涙をこぼす彼女の肩を抱き、白々しくもこのように私を責められる殿下に、私は自分の任務を遂行するべく言葉を紡ぎます。
「私はなにも悪くありません。その泥棒猫に誰が上であるかを教えて差し上げていたに過ぎないのです」
「今まで報告を受けていても、まさかダイアナがこのようなことをするなんてと、信じたくなかった。しかし、この目で見てしまったからには、この現実も受け入れなくてはならない」
「殿下、目を覚ましてください!このように庶民出の卑しい身分の女に、あなたは騙されているのです!この場にいることだって相応しくないことですのに…」
「そのような蔑視をするような女ではないと思っていたのに。ダイアナ、これ以上私にお前を失望させてくれるな」
「殿下!」
描かれた筋書き通りのセリフを吐き出しながら、ついに殿下から解放通告がなされました。
「ダイアナ、お前との婚約を解消する。このように卑しい思考の持ち主を国母に迎え入れることはできない。即刻私の前から去るが良い!」
私は目に涙を浮かべ、わっと顔を手で覆うと部屋を駆け抜け外へと出ていきました。これで、殿下の望み通り彼女に何の落ち度もなく私と殿下の婚約は解消されました。
飛び出した扉が閉まる寸前、殿下の「併せて、これからは彼女を婚約者として迎え入れたい。この場にいる皆には証人になってもらえるだろうか?」という言葉が聞こえました。
彼女は良いのでしょうか。殿下は浮気性・飽き性・暴力癖のロイヤルストレート屑でいらっしゃる。外面だけはよろしいので、気づいていらっしゃらないかもしれないですが。
なんて、人の心配をするフリはやめましょう。
「エリザ、祝杯をあげますわよ!我が人生の解放に!」
「かしこまりました、ダイアナ様」
「いえ、待って。まず学園を退学して彼の地へと姿を消した方が良いのでしょうか?彼女がもし、すぐにでも殿下の屑さを知ってしまったら、追い縋ってくるかも分かりませんもの。それ以前に、陛下がこの事態を知ったらそちらの方が厄介やもしれませんね」
あれほど殿下を私に押し付けようとしていた方ですもの、陛下がこのまま私が殿下のもとを去ることを許していただけるとは限らない。
「殿下に婚約解消され、悲しみに沈んだダイアナは王都にいることは耐えられず、すぐにでも僻地へと下っていった。これですわね」
「それでは、すぐにでも出立の準備をいたします」
私はその日の内に、僻地へととんずら…失礼、下っていきました。
***
「ダイアナ様、例のお嬢様がお見えになっています。ご面会されますか?」
「病気だとウソをついてほしいのですが…一応、話くらいは聞いてみましょうか」
あれから半年しか経ってないというのに、彼女が訪ねていらっしゃいました。何となく話の内容が分かる気がしますが、どうにかして追い返さなくてはなりません。
「ダイアナ様!わたし、もう耐えられません!」
挨拶ももどかしいとでも言うかのように、すぐに彼女は私に訴えていらっしゃいました。
「婚約を発表してから、殿下はまるで人が変わったかのように私を蔑ろにされ、気に入らなければ頬を打たれます。しかも、新しい女に目をつけては愛を囁く日々…」
「仕方がないですわ。殿下は釣った魚に餌は与えないタイプですもの」
「え?」
「大丈夫。その態度は貴女のことをご自身の所有物と認識してのもの。その愛を囁く御令嬢よりも身近の存在と認識しての態度です。もっと気を強くお持ちになって」
「え?え?そんなの、ゲームでは話に出てこなかった…」
「あら?貴女もこの『げえむ』という運命の流れをご存知なのですね。私も、友人から話は伺いましたのよ。殿下は元より貴女に運命を感じ、貴女と結ばれる結末を迎えるのだと」
学園で親しくさせていただいた友人が、そのような記憶を持ち、私と殿下と彼女の運命を教えてくれました。私は悪役令嬢という立場らしいのです。
「それを初めて聞いたときは、喜びが内側から溢れてくるかのようでした。幼い頃から家柄上、王家と親しくお付き合いさせていただいたというご縁だけで陛下から婚約を仰せつかった身としては、やはり殿下が運命に惹かれ貴女を選ぶなんてこれほど嬉しいことがございましょうか」
殿下が運命を選べば、私は自由になれる。なんと甘美に溢れた誘惑でございましょう。
「しかしながら、だからこそ貴女には頑張っていただきたいのです。本日も、本当はお会いしたくありませんでした。ですが、このようなものがこちらに届きましたの」
彼女に見せたのは白い封筒に入った一通の手紙。数日前に届いたものでした。
「殿下からの手紙です。こういった不穏なものを寄越すような状態になっておいでのようなので、貴女にはもっと殿下を理解し、私に変な矛先が向かないようにしていただきたいのです」
内容は、末恐ろしいものでした。
『彼女の束縛が強く嫉妬深いのが鬱陶しくて仕方がない。ダイアナは私のすることは包容力をもって全て許してくれていたというのに。彼女の悩まし気な表情は、婚約する前は愛おしいものであったが、今となっては辛気臭くてかなわない。ダイアナは私が何をしていてもいつもどっしりと構えていたというのに』
要約すればこのようなことがツラツラと書かれておりました。これは殿下が彼女に不満を抱いている証でございます。また私を王都に呼び戻すなんてことが起こったら、事ですので。
「気をしっかり持ってくださいませ。貴女は将来国母となる身。どっしりと構えていてください。殿下は確かに他の女性に粉をかけるかもしれませんが、王族はお世継ぎのために妾を取るのも当たり前のこと。貴女はご自身が一番であるのだからその程度のことで揺らいではなりません」
私はこの運命通りのハッピーエンドを継続するために、僭越ながら彼女にご助言させていただくのです。決してバッドエンドにならないように。